七夕の日に何やってんの?

家猫のノラ

第1話 風の音は全てを掻き消す

風が吹いて、紙が擦れ合う音がする。

『ゆーちゃんとプラネタリウムに行けますように!!!!!!』

団地のゴミ捨て場に設置された生まれつき萎びた笹、雨風に晒され萎びた飾り、不相応にも強すぎる想いを背負った短冊紙ぺら

名前が書いていなくても字で分かるの。

私を連れてってほしい、私を選んでほしい。私から誘うつもりも、ましてや打ち明けるつもりもない。だけど私以外を見ないでいて、気にしないでいて、好きにならないでいて。

こんな自分でも消化しきれない願いを長方形に詰め込むことなんてどうして出来ようか。

風が吹いて、雲が頭上を覆い隠す。

「ちゃんと結ばないとダメよ」

「うぇー?なんでぇー?」

「飛んでっちゃったらお願い事が叶わなくなっちゃうのよ」

「いやだやだぁー!!ちゃんとむすぶー!!」

飛んでいったらゴミになるから、短冊をかけに来た子どもに母親は優しく、魔法を解かないように諭す。

いつかあの子も魔法に魔法を解かされる、いや、呪いを新しくかけられるのに。

『風よもっと強く吹け』

風が吹いて、目にゴミが入る。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る