第31話 秘密のある金持ちイケメン最高

 リコの誠意のある説得が功を奏し、強盗の一人の協力を取り付けてからは早かった。彼に電話をさせると、簡単な確認が終わってすぐに現金の写真を求められた。これに関してはラムロンが持っている金をバッグに詰めることでクリア。指示役の声は加工がかかっていて人相の判断がつかなかったが、合流地点を教えてもらった以上、気にすることはない。


 実行犯の四人をグレイの部下に任せると、ラムロン達三人は早速指示役が指定した地点に向かっていた。全員、手には現金の詰まったバッグを持っている。


「ラムロンさんはどこでこんな大金を手に入れたんですか?」

「なんやかんやあってな」

「なんですか、なんやかんやって。誤魔化さないでくださいよ」

「うるせえなぁ。秘密のある金持ちイケメンっていい響きだろ? だから話したくねんだよ」

「自惚れがすごいですね……」

「あ? どこが自惚れだって?」


 適当なことを話しながら歩いていく内に、三人は人気のない路地に入り込んでいく。グレイは周辺の建物の様子を観察しながら、指定された場所まで二人を先導する。


「なるほど。ただの舐めた犯罪者だと思っていたが、ある程度は考えているらしい」

「何がだ?」

「監視カメラがない場所を選んでいる。これまで何度か受け渡し後の強盗犯を捕まえてきたが、指示役を見つけられなかったのはこういうことか」


 感心するようなことではないが、グレイはこれから自分達が会うことになる者が侮れない相手であることを悟る。彼が警戒を強めたのを目にすると、その後ろについていたリコは思わず身を小さく震わせた。


「なにか、まずいことでも起こったりしますかね。私逃げた方が良かったりします?」

「まあ、危険はそんなにないだろう。実行犯は全員寄せ集めだったし、指示役が私兵を持っているとは思えない」

「で、ですよね……」

「なんだ? 犯罪グループのネットワークに潜入したりする割には細い神経をしてるんだな?」


 怯えて顔を青くするリコを片目に捉えると、ラムロンは彼女をからかった。


「そりゃ、アレは顔を合わせない電話とか文字のやり取りですから……身の危険となれば話は別です!」

「肝っ玉が大きいんだか小さいんだかわからねえな。……っと」


 そんな風に気の抜けた会話を二人がしていると、先頭を歩いていたグレイが足を止める。一足遅れて立ち止まったラムロンは、彼の背中越しに路地の先を見る。


「……子供?」


 三人の目前に立っていたのは、一人の子供だった。フードをかぶっていて顔をハッキリ見ることはできないが、頭頂部には人間ではありえない妙な膨らみがある。


(本当に亜人? いや、付け耳の可能性もあるが……)


 ドグやフォクシーのような獣の耳を持っている可能性もあるが、それを偽っていることもある。ラムロンは疑いを心に置きつつ、指示役の子供を見つめた。


「お前がしじ……電話の」


 指示役、と言いかけてグレイはギリギリで言葉を直す。

 だが、その一瞬の隙で何かを見抜いたのか、子供は身構える。


「お前……誰だ! 今日指示を飛ばしたヤツじゃないな!?」


 顔を合わせたことはないはずだが、声色か、あるいは言葉に違和感を感じ取ったらしい。子供は自らの危機を察知すると、地面を蹴ってすぐにこの場から離れようとする。

 だが、次の瞬間だ。路地に耳の奥を殴るような乾いた破裂音が響く。銃声だ。突然の大音量に子供は体を大きく震わせ、反射的に足を止めた。


「残念だったな」


 一瞬の隙を見逃さず、グレイが距離を詰め、その小柄な体に組み付く。大人と子供、戦闘経験の有無、差は歴然だった。


「はっ、離せよッ!!」

「ビビらせて悪い、空砲だ」


 銃声を鳴らして意識を留め、その隙に取り押さえる。慣れた手つきで子供から抵抗力を奪ったグレイは、そのままその両手に手錠をつける。続けて、何か危険な武器を持っていないかと、彼は子供の体に手を這わせた。


「やめっ……ひやッ!?」

「ん……?」


 ボディーチェックを始めてすぐ、グレイはその手応えに違和感を持つ。そして次の瞬間、その妙な感覚の真実を確かめようと、その頭のフードを取っ払った。


「女、だったのか」

「くっ、うぅ……」


 露わになったのは、銀の髪を持った少女の顔だった。計画が失敗した悔しさのせいか、グレイのデリカシーのない行為のせいか、その目には涙が溜まっている。

 犯人の顔が明らかになった決定的な瞬間、だが、ラムロンの目は少女の頭に向かっていた。


「本当に亜人だったのかよ」


 銀髪の少女の頭には、同じく輝くような銀色の猫耳がついていた。

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