第53話 新人戦開始

――ゴォーン!


 看守が鐘を鳴らした。

 これが試合開始の合図の様だ。


「まずは俺にやらせろ」


 そう言って一人の男が前に出た。

 こいつはランキング7位の男らしい。

 後ろにいるのは6位と5位……。

 俺から見れば全員同じだが……。


「おっとぉ! 今回の新人戦は異例だ! 1対1で戦うみたいだぞ!」


 闘技場に実況の声が鳴り響く。


 戦う俺達には生死がかかっていると言うのに……。

 あいつらからすれば本当にただの娯楽施設の様だ。


 6位の男が剣を振り下ろしてきた。

 だが、闘気もエンハンスも無い相手の一振り……

 当たった所で全くダメージも無いだろうけど、あえて剣で受けた。


「ほぉ、今のをしっかり受けるか。少しは楽しめそうだなぁ!」


 そういって男は剣を振り続ける。

 それを俺は全て剣でガードして見せた。


「防戦一方だ! だが、攻撃をガードできている時点で今までの新人とは違うぞ! ここから新人はどう戦う!?」


 そういう実況者の声にイラっとする。


「その通りだ! 守っているだけでは勝てねえぞ?」


 相手は挑発的にそう言ってくる。


「確かにその通りだ」


 そういって真っすぐに振り下ろされた剣に合わせて俺の剣を打ち込み、弾き飛ばした。

 そして、


「俺はいつでも戦えるぞってガバジに伝えといてくれよな」


 と言って、剣の腹を顎めがけて打ち込んだ。


――バンッ!


 と鈍い音が響き、7位の男はそのまま失神した。


「な! 何という事だ!! 新人チームが上位チームを一人倒してしまったぞ!?」


 大番狂わせの出来事に会場はかなり沸いていた。


「おい二人でやるぞ」


 後ろで待機していた6位と5位の男は真剣な表情になり、武器を構えた。

 客の印象に残るキャラで行かないとな……!


「二人か! なら俺も本気を出さねーとなぁ!?」


 俺は男に剣を向けて大声を出した。


「なんと! 先程の戦いは本気じゃなかったと言うのか!? 新人……いや、ロフル選手! 期待の選手誕生か!?」


 実況者と観客の熱気は上がっている。

 それが気に食わないのか5位の男は、


「ふざけやがって……! もう許さねえ。殺してやる!」


 と叫んだ。


「はっ! 雑魚の言葉なんて全然響かねえな?」


 俺の煽りに5位は顔を真っ赤にしている。


「お、おい! あまり煽るなよ……!」


 茫然とその状況を見ている新人の一人がか細い声で言った。

 その言葉に対し、


「冷静さを失った奴から負けるんだ。まぁどっちにしろ俺は勝つけどな」


 と笑顔で答えた。


 そして、男二人は俺を挟むような位置取りでじりじりと近づいてきた。


 それを見て俺は、


「はぁ、隙だらけだな。打ち込むぞ?」


 と5位の男に歩いて行った。


 その時、男は無防備に近づいてくる俺に対して、少し恐怖していた。


「う、うおおお!」


 その瞬間、背後に居た男が飛び込んできた。


――ババンッ!


 二回、鈍い音が鳴った。

 その音と同時に二人の男は膝から崩れ落ち倒れた。


「なんと、新人側が勝利しました! しかもロフル選手一人でだ! 今後の活躍に大いに期待できるぞ!」


 沸き起こる観客に対し、俺は手を振り、他の新人と闘技場を後にした。


――それから1ヵ月後


 闘技場の試合会場にて、俺とガバジが向かい合って立っている状況だ。

 観客席はすべて埋まっている満員状態。


 この試合は1位と2位の真剣勝負。頂点を決める戦いと言う事だけあって大盛り上がりだ。


「1位決定戦、挑戦者はロフル! なんとここまで連戦連勝! 1ヵ月での試合数は過去最多の25試合! すべて勝利を納めている!」


 前例がない戦績……少し目立ち過ぎた気もするがもうここにきて1カ月が経つ。のんびりしている時間はない。

 セレナスはそろそろ気がついてくれたかな……?


・・・

・・

――同刻


 セレナス仮面を被り、観客席からロフルとガバジを見ていた。


「あいつは一体何をしているんだ……?」


 ため息交じりそう呟いた。

 中央に居る実況者は、ロフルとガバジにそれぞれ意気込みを聞いている。


 その回答にロフルは、


「俺はここだ! それを伝える為にここまで来た。静かにこの先へ行く為に!」


 と大声で言った。


 実況者がつまり1位になって存在を知らしめると言う事ですね! と聞くとロフルはそうだ! と答えている。


 セレナスはそれをみて、


「結果的に目立ったおかげで僕は気がついたが……脱出する方法何て他にいくらでもあっただろう」


 とはいえ、出入口は観客側の入り口しかなく、24時間監視がされている。

 まったく気づかれずに脱出は不可能だろう。

 とセレナスは後で思った。


「僕が何とか忍び込んで、もう一度ワイドエリアリターンをするしかないか……」


 セレナスのリターン先は上層の転送装置付近となっている。

 ロフルを見つけ、リターンを唱えれば静かに脱出する事は出来るだろう。

 別の場所に飛んでしまった前例がある為、絶対とは言い切れないが。


 セレナスがそんな事を考えている内に試合は始まっていた。


 ガバジという男は鉄の金棒をぶんぶんと振り回し、

 ロフルはそれをショートソードで応戦している。


「ショートソードで大きな金棒を相手にするのはやはり厳しいか!?」


 実況者は防戦一方のロフルを見てそう言っている。


「何を遊んでいるんだロフル……」


 そして苦戦したように見せた後、金棒を弾き飛ばし、みぞおちに蹴りを入れた。

 ガバジは壁まで吹き飛びそのまま気を失った。


 そのまま優勝となったロフルはその報酬として、

 2週間の休暇、豪華な食事と1位専用の個室に入ることが決まった。

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