第52話 新人戦
夕食後の自由時間に、俺はゼフィラと出会った洞窟へと向かった。
そこには思っていた通りゼフィラが居た。
「ゼフィラ?」
そう呼びかけると、ゼフィラは勇者様!
と言って抱きついてきた。
「昨日は本当にありがとうございました」
そういうゼフィラを優しく引きはがし、
「こら、いちいち抱きつかない。勘違いする奴が現れるぞ」
と注意した。
するとゼフィラは
「こんな事、勇者様にしかしないですわ!」
と少し怒っていた。
そのゼフィラの頭を撫で、なだめつつ
「俺はロフルって言うんだ。勇者かどうかは分からないが……君がここを出たいと望むなら俺が必ず出してやるからな」
と言っておいた。
どちらにしても俺は出なきゃならないし、その時にゼフィラを一緒に脱出させることはできるだろう。
ワイドエリアリターンの腕輪を借りさえすればすぐだ。
どちらにしても、ここから出る為にはセレナスの助けが必要だ。
なんとかしてここにいる事を伝えなければ……。
「でもどうやって脱出するんですの?」
「そうだな……なんとか外部に居る仲間に俺がここに居る事を知らせる事が出来れば……」
少し考えたが、一つ方法を思いついた。
「そうだ。俺が1位になれば話題になって外に俺の情報が行くかもしれない」
「それはそうでしょうけど! 1位のガバジはとても強いですわ!」
「大丈夫。俺も結構強いからさ」
不安そうな表情のゼフィラに俺は笑顔で答えた。
・・・
・・
・
――翌日
いよいよ今日、闘技場での新人戦が行われる。
新人側は俺含めて5人のチーム。
そして、相手はランキング上位者の3人だそうだ。
てっきり新人同士で戦うと思っていたが……。
新人戦は禊みたいなもんだと言っていたイガレットの言葉の意味が、ここで理解できた気がする。
本来なら訓練すらまだろくに出来ていない新人側が、勝利を収める事は無いに等しいだろう。
ステージの端にある武器棚には木でつくられた剣や槍、盾などが置かれている。
俺はそこから上を見上げ観客席を確認した。
そこには赤い髪の観客が席にまばらに座っている。
全員が何かしらの覆面をしており、誰だかわからない様にしているようだ。
ある意味セレナスが忍び込みやすいな……などと考えていた。
他の新人は怯えながら木の剣などを手に取った。
俺も闘気装のまま拳で叩くと相手を殺してしまう可能性があると考え、木の剣を二本手に取った。
そして両者中央へ! という声の通りに俺達は中央へと集まった。
遅れて相手3人も、武器を手に持ち中央へとやってきた。
その3人の中に俺はガバジが居ると思っていたが、
全員知らない顔だった。
そいつらは俺の顔をじろじろと見ながら、
「お前がロフルだな?」
と言った。
「そうだ」
俺がそう答えると、
3人は笑い始め、
「ガバジさんにお前を徹底的に痛めつけろと言われている。精々死なない様に頑張りな」
と言った。
そのやり取りを見ていた俺側の新人達は完全に恐怖で委縮していた。
「なぁ、お前達。狙いは俺の様だからまずは俺が一人で出るよ」
俺は怯えている新人達に提案した。
「一人で勝てるわけがない! ぼ、僕も一緒に!」
一人は勇気を出してそう言ってくれたが、
「大丈夫。安心してな」
と肩をポンと叩き、俺だけ一歩前に出た。
「一人で戦うつもりかぁ?」
「狙いは俺だろ? この方がそっちもやりやすいと思ってな」
そう言いながら俺は木の剣を構えた。
それをみて上位者3人は嘲笑いながら
「あっはっは! いいね。お望み通り再起不能にしてやる!」
と言った。
こいつらには本当に申し訳ないが、俺はこの試合は茶番としか思えなかった。
俺以外はエンハンスどころか魔法一つも覚えていない。
更に闘気も一切感じず、筋トレの効果で少し筋肉がついているだけ。
ハッキリ言って指一本で倒せそうだが、
観客へのパフォーマンスを忘れてはいけない。
全員に見える程度の速度で剣を振り、圧勝する。
そしてすげえ新人が来たと思わせるんだ。
セレナスに俺の情報が届くように!
俺はここにいる! セレナス気づけ! 助けてくれ! と!
「では始めるぞ!」
審判の役割である看守がそう言ったので相手も武器を構えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます