第43話 再戦

 セレナスは一人、森を歩いていた。


「僕は……弱かったのか」


 そう呟くセレナスの拳には力が入っていた。


 学園の授業である、魔装魂での戦いでは他の生徒を圧倒し、無敗だった。

 今後も一度も負けない為に、努力も惜しまなかったつもりだった。


 だが、ロフルに出会い、自分は井の中の蛙だった事を一瞬で思い知らされた。


 セレナスは強者を従え、エルミラを共に討つ事を考えていた。

 もちろんその中では自身が一番強い。

 そのはずだった。


「明日、もう一度戦おう。全力で」


 セレナスは少し笑みを浮かべていた。

 無敗だったが故に、彼も本気で戦った事が無かった。


 本気の自分がどれだけ通用するか……。


 そして、同時にエルミラを倒せる可能性が高くなったことも実感していた。

 ロフルなら倒せるかもしれない……。


「僕もおかしくなったか……下位の者にそんな大役を託す事を考えるとは……!」


 だが、神徒としてのプライドがその考えを拒む。


 セレナスは一人で葛藤していた。


・・・

・・


――翌日


「ロフル! もう一度僕と戦え」


 時間は昼頃、道場の広間でグリムホーフを焼いている時にセレナスは現れた。

 貴様呼ばわりから名前呼びに変わった。

 何か心境が変わったのだろうか。


「お、セレナス……わかった! けど、先にこれを食ってけよ」


 そういって俺はセレナスにグリムホーフの塩を振った骨付き焼肉を手渡そうとした。


「な、何だこれは? 僕はいらない。早く決闘するぞ!」


 セレナスは肉を受け取らず、そのまま俺を昨日戦った場所へ連れて行こうとした。


「おい、待てって! 俺腹減ってるからさ……まじで、一回食ってみろって!」


 俺のその言葉に、セレナスはしぶしぶ了承し肉を受け取った。


「……食べる前にこれが何か教えろ。訳の分からない物を口に入れる程、馬鹿では無い」

「グリムホーフって言う魔物の肉だ! 美味いぞ?」


 俺が笑顔でそう答えると、セレナスは蔑むような表情で、


「は? 魔物の……肉!? 何て野蛮な奴らだ……食えるわけがない!」


 と肉を置いてしまった。


「えー……美味いのに勿体ない」


 そのやり取りを見ていたリリアナが、


「セレナス! 一口でいいから食べなさい」


 と命令口調で言った。

 セレナスはその発言に驚きつつ、

 小声で、


「リリアナ……下層では種族とか関係ないと言っていなかったか……?」


 と言いつつも一口かぶりついた。

 やはり階級が上の者に命令されると断れない性質らしい。


「う……何だこれは! 初めての味、食感だ……!」


 セレナスの目は輝き始めた。


「美味しいでしょ?」


 リリアナは自慢げに言った。

 セレナスはその問いに、少し恥ずかしそうに頷いていた。


「セレナス、いっぱいあるから好きなだけ食べろよ!」


 そうしてお昼の肉パーティー後、少しの食休みを挟み、

 昨日と同じ場所で再度セレナスと戦う事になった。


「ロフル、言い訳になるが昨日は油断した。今度は全力で行く」


 セレナスはそう言って、長さ15cm、直径4cm程の筒状の何かを取り出した。

 それにはびっしりと魔法輪のような模様が刻まれている。


「三輪、エンハンス」


 その筒を右手で持ち、エンハンスが起動している左手甲の魔法陣に触れさせた。


「おお? 光始めた……!」


 そのまま筒は光始め、青い三叉槍へと形状を変化させた。


「これはフロストハート家の家宝、[魔装具・水蛇の槍(すいじゃのやり)]だ」


 青く氷のように輝くその槍は、今までの武器では感じた事が無い威圧感があった。

 セレナスはその装備を魔装魂の方で持った。


 槍を構えると同時に、セレナスの周囲を覆うように雪が舞い始めた。


「これを実戦で使うのは初めてだ。今まで使うまでも無かったからね」

「俺が初めての相手か。光栄だな」


 そういって俺も気を引き締めた。

 昨日のセレナスとは雰囲気が大きく異なる。


 今日は先制攻撃をしてみよう。


 俺は瞬間的にセレナスの後方へ移動し、真っ直ぐに頭部へ拳を撃ち込んだ。

 しかし、セレナスはその拳に反応し最小限の動きで回避した。


 そして、こちらを見る事も無く、的確に槍を俺の腹部へ真っ直ぐに突いてきた。


「あぶねッ!!」


 咄嗟に足に力を込め後ろへ後退した。

 なんとか槍先は俺を貫く事が無かったが、そのまま槍の先端から青いブラストの様な魔法が射出された。


「――避けられないッ!」


――ドシャァン!!


 青いブラストは俺に着弾した瞬間晴れるし、周囲を巻き込みながら大きな氷山を作り出した。

 俺はその氷山に閉じ込められてしまった。


「昨日の借りは返したぞロフル!」


 セレナスは勝利を確信していたが……。


――バリンッ!


 俺は瞬間的にバインドを唱え、自身の周囲に張り巡らせていた。

 そのおかげで隙間が出来ており、闘爆衝を放ち氷を砕いた。


「氷を砕いただと……!」


「危なかったよセレナス! 俺の全力も見せよう」


 そう言って右腕に再び闘気を集中させながら魔法輪に触れた。


「六輪、バーストチェイン!!」

「――ッ!!」


 セレナスの魔装魂はそのまま俺の魔法の光に消えていった。


「あ! まずい、あの槍も消滅するんじゃ――ッ!!」


――キンッ


 だがその心配は必要なかったようだ。筒の形状に戻った魔装具が地面に落ちた。

 見た目はまったく無傷の状態だ。

 とてつもなく丈夫な筒だな……。


「僕の負けだ」


 肉体を置いていた場所からセレナスが歩いて戻ってきた。

 俺も魔装魂を解除し元に戻った。


「いい勝負だったよ。かなり意表をつかれた」

「慰めの言葉はやめろ。とにかく僕は決心できた。さっきの槍……魔装具など共有すべき情報が色々ある」

「慰めてるつもりじゃなかったんだけどな……なら茶室を借りて話をしよう。俺も伝えたいことがあるしな」


 そういって俺とセレナスは茶室へと移動した。

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