第16話 放送が乱れてすみません。

「あ、ごめんなさいね」


 私はカメラから手を離し、画面の向こうの視聴者様に謝る。


「ごめんね。この子、昔のこともあって捨てられるのが怖いらしくって」


 ナギが頭を撫でてくれる。私はその手を掴み、無言で抱きしめる。


「そうそう。質問に『ナギさんは独占欲強めですか?』ってきてるけど強いのはルルの方なんだよ。こんなのだから他の召使いも雇えないし。まあルル1人いたら十分なんだけどね」


「ルルがこんなだから、今日はコラボ配信のことだけ話して終わるねー」


 コメントを見る気力すらない。今日はもうひたすらナギに甘えていたい。

 現在進行形でナギに甘えているなんていうツッコミはお断りする。


「えーと、まずフウカとの関係だね。彼女とはリア友なんだ。先週の配信終わった後もお泊まり会してたんだ!」


 ナギは楽しそうに離している。私も一応配信中なので配信画面にオフショを映し出す作業をする。


「そうそう。仲良いんだ! もう大親友だよ。うん。楽しかった。あ、このお菓子は私たちの作業のお供だよ。深夜に食べるお菓子は本当に美味しい」


 ナギは次々と流れてくるコメントに返信していく。私も機嫌を直さなければとは思うもののそう簡単にはいかない。

 捨てられた日のことを思い出して、怖かったのだ。

 両親と過ごした最後の日、まだ幼かった私は母親にハグを求めた。

 だが母がハグしたのは妹だった。母が私を抱きしめることはなかった。


 だからナギを許せなかった。


「そしてみんな楽しみなフウカとの配信内容だけど……『フウカをノルマ破りにしよう!』です」


 コメント欄もざわめく。ノルマ破りなんて一度の配信で慣れるものではないはずだ。

 でもナギならできる。

 詳しい説明をしていくナギを眺める。

 楽しそうに目を輝かせていて、なんだか寂しくなる。ナギを視聴者さんに取られてしまったような気がして寂しい。


「じゃあ、今日はここまで! またねー」

「……さようなら」


 私も一応手を振っておく。

 ようやくカメラが止まった。

 風呂に入ろうと立ち上がったが、ナギに抱き止められた。


「待って」

「何? お風呂入るんだけど」


 今は1人になりたかった。だがナギは離してくれない。


「ごめんね、ルル。本当にごめん。また思い出させちゃってごめんね。今度こそ気をつけるから」


 頭では許したいのに心の中にいる幼い私が許してくれない。それが苦しい。


「ねえ、あたいまだルルのこと好きで良い?」

「それは! ……良いに決まってるよ」


 まだ今日のことを許すことはできなさそうだ。でも、まだナギのことが好きだ。それは変わらない。


「よかった。大好きだよ、ルル」

「私も大好き、ナギ」

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