第7話
「どういう意味ですか、母上」
「言葉通りの意味よ。貴方には浮いた噂もなく結婚に興味がないのかと心配していたの。この方ならよろしいわ。気に入りました」
自身も着席しながら、ソーニャはこほん、と咳払いした。
些細ないたずらに意趣返しをしたつもりのエミリアだったが、しまったと凍り付く。
(気に入られようとしたつもりではなかったのに。お気持ちは嬉しいけど……)
「この僅かな時間で何があったのか分かりませんが、……ありがとう。素直に嬉しい……ねえ、エミリア」
きらきらしい笑顔を向けるエドワードに、エミリアは引き攣った笑みを浮かべるしかない。
エミリアを先行して食堂へ案内させたのは、ソーニャの指示だったようだ。
エミリアが客人としての対応を採るか、臣下としての対応を採るかどうかを試したかったのだろう。
客人のつもりで先に着席していたら、非難するつもりだったのかもしれない。
結果、気にいてくれたようだが。
「まあ、あなた。見てくださいな、あのエドワードの嬉しそうな顔」
「ああ、久しく見なかったな。これは、結構。さ、早く食事を運んでくれ。楽しい夕食になりそうだ」
ソーニャと王が、顔を見合わせて目尻を下げる。
微笑ましい光景ではあるが、渦中のエミリアは先が思いやられた。
***
「では、私たちはこれで失礼します」
「もうこんな時間か。すっかり引き留めてしまったな。いや、楽しかったよ」
「少し遅いかもしれないけれど、今日は素敵な星月夜よ。エドワード、少しお庭をご案内してはいかが? 冷えるといけないから、私のガウンをお貸しするわ。後で、持って行かせるから」
「陛下、勿体のうございますわ……」
「ありがとうございます、母上。では、エミリア、行こう」
「えっ……」
エドワードは有無を言わさずエミリアの手を取り、退出した。
「エドワード様。あの、私、王后陛下から衣類を拝借するなんて、畏れ多いわ」
「いいや、エミリア。母の気持ちを受け取ってくれ。あの人は滅多に自分の物を他人に触らせたりしないんだ」
「それなら、余計に」
「つまりそれくらい、貴女を気に入ったんだ。驚いたよ、いずれは気に入るだろうと信じてたけど」
エミリアは、エドワードの熱っぽい口調に閉口した。
せっかくお招きいただいたのだから、出来る限り、楽しい時間を過ごして欲しい。
他人と食事をする時はいつも気に掛けているけれど、特別なことは何一つしていない。
少し気後れするくらいだが、嫌われるよりは好かれる方が良い。
喜んでもらえれば、純粋に嬉しい。
「エミリア、こちらへ」
エドワードは庭園へ続くガラスの部屋へと足を進めた。
中心のテーブルの上にはキャンドルが用意されており、燭台には火が灯されている。
「わあ……。とても綺麗ね」
エミリアは思わず感嘆の声を上げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます