第17話

「ま、殿下はエミリア様がお召しなら、何でも気に入るでしょうが」


「ふふっ。そんなことありませんよ」


 エミリアは少しだけ、エドワードのことを思い出した。


 このドレス姿を見たら、何と言葉を掛けるだろう。


 ありったけの美辞麗句で、エミリアを困らせるだろうか。


「それでは参りましょうか」


「はい」


 リチャードは、馬車の準備に向かった。


 エミリアは、王都への道すがら、リチャードに質問攻めにされた。


 食べ物の好みや、寝起きの習慣、


 好きな花や本、音楽、果ては趣味まで。


 リチャードは、エミリアのことを知りたがった。


「では、次は私の番ですね。まず、僕と殿下の関係についてお話しします」


「リチャードと殿下の関係?」


「はい。ご存じかもしれませんが、ヴァルデリアでは騎士団の団長を王家の人間が務めています。現在はエドワード様が団長であり、私はその下級騎士でした」


 エミリアは頷いた。


 エドワードがどのような人物かは知らなかったが、王太子が就任したと知っていた。


「しかし僕はこの通り小柄でもありまして、評価が芳しくなかった。身分も高くないので、常に虐められていました」


 痛ましい過去を想像して、エミリアは胸を痛める。


 エミリアも貴族の中では身分のあるほうではないので、気持ちはよく分かる。


「報われない日々に退団を考え始めた頃、エドワード様が団長に就任なさりました。僕の生活は雑用ばかりで特段変化はありませんでしたが、ある時急に僕に尋ねました」






『お前、薬草に詳しいそうだな』


『は、はい。多少は嗜んでおりますが……?』


『そうか。なら、今から言う草を集めて来てくれ。あるだけで良いが、夕暮れ時までに。頼んだ』


 リチャードは突然の命令に驚いたが、同時に嬉しかった。


「それからも事あるごとに呼び出され、次第に周囲の扱いが変わりました。……単に殿下の目を気にしてかもしれませんが」


『お前は小さいから目端が利くし、記憶力もいい。近衛兵のほうが向いているな。配置替えを提案しよう』






「僕はずっと、家柄や体格に恵まれないことを嘆いていた。でも、それをエドワード様は逆に長所として褒めて下さったのです。あの方は僕に地位以上のものを下さった。だから僕は、生涯をこの方に捧げようと誓ったのです……! って、エミリア様? どうして貴女が泣いているのですか」


「だって……お二人の友情に感動してしまって」


「だからって! いや、友情ではないんですけどね。エドワード様と僕では身分が違いすぎますし」


「違うわ。エドワード様は貴方を特別な友だと思っておいでよ。貴方をとても信頼しているもの」


「だと嬉しいですけど……」


「そうなのよ。私にはわかるわ」


 エミリアは確信していた。

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