第5話

「偽りを口にしてはいけません。ご両親が了承する……など」


 振り向いてエミリアは全てを悟った。


 フィリップの横へ傅き、サンフラン嬢はエミリアへ懇願する姿勢を見せている。


 が、サンフラン嬢の表情は、口角を上げて嘲っていた。


「二人とも、私が陛下にお仕えする日を首を長くして待っておりました。お二人にお世継ぎができなかった時の為にも、お役に立つようにと」


 エミリアの胸中が伝わったのだろう、サンフラン嬢はもう繕おうともせず、すっと立ち上がった。


「エミリア様のご立腹は無理もありません。お優しくて見目麗しい陛下ですもの。独り占めなさりたいお気持ちは良く分かります。しかし、私の気持ちも、どうかお汲み取りくださいませ」


 そのまま倒れ込むようにエミリアへすがりついたかと思ったら、サンフラン嬢はエミリアだけに聞こえるように囁いた。


「私が陛下のお子を身籠れば、貴女は用なしよ。けど、安心して。大人しくしていれば追い出したりはしないから……」


「無礼な! 王妃である私を侮辱して、ただで済むと」


「きゃぁっっ!!」


 縋りつく腕を振り払っただけなのに、サンフラン嬢は大袈裟に仰け反って後方へ倒れ込んだ。


「エミリア! 何をするんだ? 彼女は君に許しを乞うていただけなのに」


「私は、それほど強くは……彼女が、勝手に」


「いいえ、陛下。エミリア様のせいではありません。私、感情が昂ってしまって、お体に触れたりしたから」


「たかが体に触れた程度で突き飛ばすことはない。エミリア、君はもっと冷静で淑やかな女性だと思っていたのに」


 フィリップの冷ややかな視線を浴びながら、エミリアは努めて冷静であろうと呼吸を整えた。


 しかし、できるはずがない。


「本来の君は素直な優しい性格だろう? まず、いつものように彼女に謝って。話の続きをしよう」


 サンフラン嬢は両親の許諾を得て、王宮へ乗り込み、自室へフィリップを誘った。


 子供だけは、どう努力しても今まで授からなかった。


 その弱点に付け込んで、サンフラン嬢は力づくで王妃の座を奪い取りに来たのだ。


 にもかかわらず、当のフィリップは目的に全く気付かない、今この場に至っても理解していない。


 その上、愛人と同居を了承しろ? 性悪女に詫びろ、ですって?


(なんて……)


 なんて、お目でたい夫。


 そんな男が冠を被って『国王陛下』だなんて、笑わせる。


「ふっ……」

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