アンドロイド美少女・ユリカ、揺籠を破る。

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第1話 小さな霹靂


私、十役じゅうやく 一香は、昼にスーパーのバイト、夜はレムというニクネ(ニックネーム)でエレキギター動画を気まぐれ投稿し、何とか趣味費用貯金ながらのアパート暮らしにしがみ付けている、二三才のフリーター。


最近、友人の反応がそっけないものへと変わってしまった。

それ故に、私は今一度、友情という存在について深く考え込んでしまっていたのだ。


結果として、無力感に不公平感、時間の浪費と、私の色々な何かが削り取られてる気がして、ただでさえうずたかい愚痴を閉じ込めたストレスのレンガ本が、ドシリドシリと、積み上がっていくだけだったが。


ガツンと言ってやりたいけど、多分ウザイって縁切られるよね。

踏み込めないなー。めんどくさい。


いっそ、いや結構仲のいい部類に入る友達だから、感情に任せて縁を切っちゃったりしたら、後々後悔しそうだ。


ため息を零す。


そういう奴だとは思えなかったけどなー。

あれだけ沢山話しても案外、分からないものなんだな。


そう考えると少し、吐き気がした。


こんなんなら、アンドロイドと友達になろうかな。最近店で見るリアルなヤツとか、チャットAIとか。

少し想像してみる。


姿は人と大差ないほどリアルだけど、機能性はペッパーくんと大差ないほど機械的、そんな見せかけロボットだという先入観がから、家で会話するシーンや家で愚痴相手になってもらうシーンを想像する。


あまりにシュールな映像に、失笑する。


つまらならさそー。というか、あのアンドロイド高そ。


やっぱまだ、人間かな。


じゃあどうやって愚痴ろう。


りえなは忙しそうだし、くーかは繊細だから疲れさせてしまうだろう。

配信は、そもそも雑談やってないし。


一人でぼやくかーって。あ、そういえば独り言は霊を寄せ付けるってYouTubeで聞いたなー。


「はあ、じゃあどうすりゃええねん!」


最近、四国から越してきた東京都のあるアパートの一室で、太く二本に分けたおさげを揺らし、後頭部をガシガシと掻きながら狭い部屋を歩き回っては、膝から崩れ落ちて女の子座り。

途方に暮れる一香である。


まあストレス発散になるかもだし、娯楽として見てみるか。


この前、話題に上がったAIの話。

その時、友達が呟いた人間に近いアンドロイドの販売。 千七百万という数字。 そして、幼女から老人までと、幅広いモデルが存在するという艶やかな言葉。アマゾンでも販売しているという、珠玉しゅぎょくの言葉。


それらの記憶を頼りに、スマホの電源をつけると、即座にアマゾンへ飛び、検索エンジンに『アンドロイド jkモデル』と入力する。


そして、様々なJK(アンドロイド)が並ぶと、仰天し、『おお、店で見たやつだと』と、ニヤリ、ニヒルの笑みを浮かべた。


にしても何だよこのクオリティは、ほぼ理想のプロポーションじゃないか……。


黒から白へと様々な色をした髪を持つアンドロイド少女が人気順に並んでいで、値段はどれも友人から聞いた覚えのある、千五百万に千七百万と、高級車数台は買えそうなほどの高価で、とても手が届きそうにないものばかり。

けれど、やっぱりかと腑に落ちるのは、私から見て、それほどのクオリティを感じたからだろう。

画像の子と目が合うと、とても眩しく感じて視界をグッと細めた。


きっと中古もヤバいんだろうな。

感覚的に思いつつも、好奇心と根拠の無い期待に、一応と心で呟き、中古の中から水色の髪のJKを絞り込んでいく。


絞り込みフィルターを設定すると、舐めるよう目で、慎重に、一人たりとも取り逃さぬようにといった感じに、画面をスクロールしていく。


安くても三百万以上はするものばかり、やっぱこういうのには手が届かないのかな。


先程まで最高潮だった胸の猛りはたちどころに、鉛のようなものによって沈められていく。


五、六回ほどスクロールした時には、重いため息が漏れた。


バッカみたい。結局私には、こんなぬかるんだ地面を掻き分けていくような、うだつのあがらない人生がピッタリなんだ。まあ、分かってましたけど。


私は、期待に添えない出来事が重なると、こうして悲観的な思考に落ちていくのだ。


とはいえ、目の保養になるから、スクロールを止めず、取り敢えず突き当たりまでは進んでみようと指を動かし続ける。

そんな時、心をピンと鋭利なもので貫かれたような気がした。


えっ、なんて可愛い子なの?


私は一瞬、自身の視界を疑った。


水面鏡のような輝きを湛える水色のミディアムボブ、艶やかでフサっとしていそうな水色のまつ毛に、柔らかく優しそうでどこか儚げなアーチを描く輪郭が囲う、水晶玉のような翡翠の瞳。


アラバスターを思わせる白い肌に、山の天然水を含んだ後のような、透き通った唇。


服は、赤のメイド服と一風変わった雰囲気を醸してるが、それが彼女の宝石のような白い肌と、水色の髪を強調しているようだった。


これ以上無いとも思える程の魅力に、画面越しではあったが、私は暫し、目をしばたたかせながら固まってしまった。


そして、どうせ高い。そう感覚的に思いながら、視線を少し下にずらすとハッと驚きの声が溢れる。


八万円って……嘘。


再び自身の視界を疑った。


そして二度見、三度見と目を瞬きしながら凝視したが、どうやらそれは、本物のようだ。


一応、頬をつねるってみるも、ふわついた現実をより鮮明にするだけだった。


こんな美しいJK(アンドロイド)が……


明らかに他のアンドロイドとは別次元なクオリティだと思うのだが、何故こんな安いんだろう。

なんとも形容しがたいような異質さが、心臓をさすってくる。


まあ、確認しない限りは分からないか。


すぐさまタップし、商品紹介を見ると、『諸事情あって、もう必要なくなりました。 どなたか、優しいお方に買い取っていただけると幸いです』


と、書かれていた。


必要無くなった? どういう意味なんだろう。

ふと、怖い妄想が頭を過り、ちょっと不安になったが、私は、突き動かされるように購入手続きへと向かった。


まあ結局、何考えても出品者がどのような理由で売ったかなんて分からないから、可愛い上に安価でお得くらいに思って買うか。


何より、こんな何しても手に届かなさそうな代物、今後見かける事も無さそうだし。

というか、仮に機能面で問題があっても観賞用として置いとけばいいんだし。


まぁ、少なくともこのまま様子見してて、売れたりでもしたら絶対後悔しそうだもんな。後悔する事だけはしたくない。


一応、ほんの少しというか何となく、事故物件を目の当たりにしたような不思議な気分になり、ふと『これが、心理的瑕疵しんりてにかしというものなんだろうか』

と、心で呟いたのだが、意思は変わらない。


そうして、出品者とのやり取り、買取(衝動買い)を済ませると、後は三日ほど発送されるのを待つだけとなった。


三日か、待ちきれないなーー!


とりあえず今はYouTubeで情報収集しよ!


『アンドロイド 購入』で検索っと。


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