戻りの日

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様々な環境の変化に不安を抱きつつ、実際は楽しみが勝る里美の新生活。

ついに仕事復帰が決まったが、復帰初日に思わぬ出来事に見舞われる。

《光の道しるべ》新章。

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ここ数ヶ月は上手く行き過ぎていて、これから起きる何かに期待と不安が入り混じる。

それでも二人の間に授かったクリアな心を持った三つの宝石を守るべく、里美は強くなると改めて心に誓った。


春、修二が長いこと目をつけていた土地に家を建てることが決まった。

かつて存在した駅の区画整理事業によって誕生した地区であり、この場所ならば職場までの通勤時間も現在とそこまで変わりなく生活も大きく変わることはないと予想された。

何より子ども達が小学生に上がる前に定住できる場を見つけられたことは、今後の安心にも繋がるだろう。

長いこと見当をつけていた土地であったこと、その売買のタイミングも良く、施工会社等の下調べをする時間はそれまで有り余るほどだった。


「あのね、復帰するの来月頭からに決まったよ。」

「何か急な様な気もするが…まぁ良かったな。最近元気そうだし安心した。」


里美の仕事復帰も決まり、今後の保育理由も『病気』によるものから『就労』へと変わり少しずつ状況は良い方向へと変わっているのは明らかだった。

それでもパニック発作との付き合いは必要であり、過去に発作が起きた時と似た状況に出会うと避けることは難しかった。

それでも起きそうな感覚に陥っても落ち着いて対応する事はできていたし、服薬によりコントロールできているように思う。



復帰の日

制服に袖を通す。

気づけば三年近くも年月が経っていた。

出産のため休みに入りその間に組織の移行があったことから、里美がこの制服を着るのは初めての事だった。


「うぅ、胸が苦しい…ワンサイズ大きい方が良いかしら。それにしても動きにくそうなデザインねぇ」

「俺はそのオッパイが現在でありがたいけどな。俺も頑張ってマッサージしてやんないとな。」

「もぉ!これでも萎んじゃった方だけどね。それはそれでショック受けてるんだから!」


三人の子ども達に代わる代わる授乳していたあの頃、ひっきりなしに母乳を生産していた両胸も今ではピークの頃のような張りは若干失われたものの、修二の愛により膨よかな双丘は健在だった。

裾がスカートのように膝上で広がったワンピースデザインに、階級によりカラーは異なるが、ブラックでまとまったその制服について、里美はそれなりに気に入っていた。

様々な出来事がありまだまだ仕事復帰には懸念があるが、まずは少しづつ社会へ戻っていくことを最終的に決めたのは里美本人だった。


いつもの様に子ども達を園へ送ると、二人は国の為に働く研究所職員の顔へと変わる。

里美は口元を噛み締め、胸に手を当てた。

休みの期間で失った感覚と思考を取り戻す為、ここ数年で目の当たりにした自分自身の弱さを改めて受け入れ執務室へと歩を進める。



五時間後


「桃瀬、おまっ…どうしたらこうなるんだよ。」

「へへぇ、やっちゃった…」

「なーにやってんだよ、これ笑えねぇぞ?」


正直言って笑い事ではない。

復帰初日に骨折とは何という事なのだろうか、目の前で腕を組み壁に寄りかかる修二の顔に笑みは無かった。

里美が救急で運ばれ迎えに行くよう連絡を受けた昼休み。

連絡を受けたその瞬間血の気が引いたのだが、転倒したのだと聞き修二は直ぐに安堵した。


「お前はなぁ…また入院生活を始める気か?」

「そんな訳ない!だって…」

「だって何だ?」

「転んじゃったんだもん。」

「転んだって子どもじゃないんだからよ。ったく…気をつけろよ」


『転んじゃった』とは何ともシンプルで分かりやすい理由だと思う。

しかし転倒で救急搬送するのだろうか。

近くに居た誰かが慌て驚き、救急車を呼んでくれたのだろうか。

兎に角、命があるだけ良かった。

以前から粗忽な性格であり、里美のプライベートを知る者なら納得する事が多いだろうが、流石にこうなる事は今まで無かった。

ここ数年で里美には発達による特性があると分かりそれも影響しているのかもしれないが、今後無事に生きて行けるのか修二は心配で仕方なかった。

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