光の道しるべ《シリーズ小説第二期》

アカリン@とあるカップルの家族誕生小説

変わる日々

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里美の身に表れた変化。

時間が経てば元に戻ると思っていた。

日常の小さな出来事をきっかけに、少しずつ歯車が狂い始めていた。◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

『桃瀬がこうなったのは、遡れば双子を身籠った頃からなんだと思う。』


修二はある人物にそう伝えた。

この時は、それほど深刻な事とは考えていなかった。



あの頃は初めての育児に追われ、そして修二のドイツ行きという心細さから、本人は口にしなかったが元の体型からはかなり痩せ細り、初めての慣れない育児に自信を失っていた里美。


現在、長男亮二はもう直ぐ二歳。

世に言うイヤイヤ期真っ只中。

小さく産まれたものの、それなりに少しずつ成長が見られる今ではやんちゃな男の子だ。


長女と次女で双子の女の子、愛梨と優梨は一才二ヶ月になり、愛くるしさの反面こちらも毎日イヤイヤを連発。

柔らかな髪も伸び、くるくるヘアが何とも愛おしい。


しかし一歳とか二歳とか、今から毎日こんなに嫌なことばかりでこの先、子ども達はこれならどうやって生きて行くのだろうか。

そんな三人の子供たちは育休中の里美と日々一緒に日中のほとんどを過ごしている。


夫、賀城修二。

某大学を卒業し、就職した先は日本を拠点とした国際的な組織であった。

ドイツでの勤務を数年こなした後、紆余曲折あり、かつての彼女だった里美と出会い二年前に結婚。

いわゆる授かり婚だった。


妻の賀城里美、旧姓は桃瀬。

学年差がありながらも修二と里美は同じ大学を卒業した。

同棲しながら修二の就職活動姿を見てきたこともあり、修二の内定先を同じく目指し、後に見事今の組織に就職した。

修二同様海外勤務の経験もあり、それなりの高評価を受けつつキャリアを積んで来たが、現在は出産育児のため休職中。


大学に入学したその年の冬、二人は付き合い始めすぐに同棲を始めた。

しかしそれも長くは続かず、お互いどちらが悪いとかではなかったが、里美の体調のことや互いの今後の事を考えそれぞれの道を進むことにした新年度の春。

修二は社会人となり、里美は大学最後の年を迎えそれぞれの新たな道を歩み始めたのだった。



別れてからも本人から無事に就職が決まったと連絡をもらったのを最後に人伝いに色々聞いていたし、時には自分の目でその姿を見かけた時もあった。

当時任務先だったドイツで見かけたあの時、修二は自分ではない別の男と親しげに寄り添いながら歩く里美の姿を見かけた。


『あいつが今幸せならばそれで良い。』


修二は自分に言い聞かせたものの、現地のアパートメントに帰宅すれば夜一人枕を濡らすこともあった。


『いつか再び出会うことがあるのなら、二度と離す事はしない。』


あの時の強い後悔と決意は後に現実叶ってしまったのだから、信じ続けると願いは本当に叶うのかもしれない。


その後、これは運命なのか毎年夏に通達されるこの組織での辞令に従い日本に帰国すると、そこには修二がドイツへと渡った数年後に同じ地で、そして近隣の複数の国で任務に就いていたという里美も同時期に辞令を受けて帰国したのだ。



里美はとある頃から言葉を発する事が極端に減った。

体調が良い時は笑ったり楽しそうにする姿も見られるがそうでない日も割と多く、浮き沈みが大きいのが気になるところ。

きっかけは本当に小さな出来事だった。

我が家に新しいレンジがやってきた日、元々置いてあった場所とは違う場所に置きたいと里美が言った。


だが、そうすると配線の問題やケーブルの距離に不都合が出ることからベストな方法を修二が提案したのだが、どうやらそれを気に入らなかったらしい。


「そんな風にしたらケーブルが丸見えでみっともないじゃない!」

「じゃあ自分で好きに移動して納得するまでやればいいだろ。」

「そうやって、使いやすい様に考えるのも重たい物動かすのも、私が一人で頑張ればいいのね。」


修二は何度も何度も重たい家電を行ったり来たり動かし、なかなか決めない里美に苛立ち始めていた。

里美は里美で自分にだけに考えさせて、意見しない修二に苛立っていた。


キッチンの背面カウンターは無造作に、炊飯器やレンジが置かれたまま。

その場を離れた里美は子ども達の相手を始めていたが、その後ろ姿は俯き泣いている様にも見えた。


そんな事で泣くような人ではないはずだが、確かに修二も自分の言い方がキツかったかもしれないと反省した。

『そんな小さい事で』と思いつつ、里美にとっては小さな事ではなかったのかもしれない。

何か気づいて欲しい望む事があったのかもしれない。


だが、今は何となく話したくなかった。

二人の間の悪い空気を一度浄化させる必要があると感じた修二は、その場から離れ頭を冷やすために玄関へ足を運ぶとそのまま外へと向かった。


一時間も風に当たれば修二も気が落ち着くだろうし、里美も普段通りになるだろう。




そうなるはずだった。





「修二さん!?あの、歩美です。お姉ちゃん家に来てるんですけど、何だかおかしくて。子ども達大丈夫ですか!?修二さん今家にいます!?」


電話の先で慌てるような口調で話すのは里美の妹。


「俺、今外だよ?さっきあいつが子ども達と家に居る所を見て、俺外に出てきたんだが。」

「やっぱり…」

「まさか子ども達だけで家にいるってことか!?」

「そうだと思います。私も今向かってますけど、修二さんも早く戻って!」

「俺は近所にいるからすぐ戻る。歩美ちゃんは来なくて大丈夫だ。とりあえず桃瀬に付いていてやってほしい…頼む。」


大急ぎで自宅へ戻ると、点けっぱなしのテレビに泣きながらママを探し回る亮二。

そして泣き喚く愛梨と優梨の姿。


「良かった、何事もなくて…」

「まんまぁぁぁ!」


ママを求めて泣く息子と娘たちを抱きしめ落ち着かせる。

泣きながら母を求める子どもたちの姿を目にして胸を撫で下ろすと同時に、子ども達を置いて出て行った里美の考えに理解ができず、修二は何か胸の騒めきを感じた。

だが、きっと頭ごなしに怒っては先ほどの事もありどうなるかわからないため慎重になっていた。



「お姉ちゃん、これから送って行きますね。」

「悪いな。」


二駅先に住む歩美が里美を送ってくれるという間に、修二は子ども達三人の食事を作り食べさせる。


「まま?」

「ママはもうすぐ帰ってくるからな。ごはん食べよう。」


ママが大好きな亮二は、修二に食べさせられるのが嫌らしい。


「愛梨はベーってしないよ。ちゅるちゅる好きだろ?」


大好きなはずのうどんなのに、三人とも進みが悪い。


「亮二も遊ばない。ちゃんと食べて、もぐもぐして。人参さんもな。」


今にも眠りそうな優梨は、たぶん三、四口しか食べていない。

何とか目が開いているうちに口へと入れるが目は閉じ、口だけが何とかモグモグと動いている状態だ。



「ママが帰りましたよー、歩美ちゃんも一緒だよぉ。」


歩美が久しぶりの甥と姪の姿を見て嬉しそうに話しかける。


「色々と悪かったな。」

「いえ、それよりお姉ちゃん…ヤバいかも。」

「何が?」

「精神的に…?」

「俺ら、昼間言い合ったんだ。それがダメだったかね。」

「わかんないけど、お姉ちゃん育児ノイローゼってやつかも。」

「あぁ…全然気づかなかった。」

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