第9話 義父と花田課長②
私が入社して間もない頃、花田課長は、事あるごとに私の体に触れてきた。それもお尻や胸だ。すれ違いざまに「おはよう」の挨拶代わりのようにお尻に触られたことなんて日常茶飯事だ。
飲み会では、トイレに立った時に付いて来て、廊下で抱きすくめられて危うくキスをされそうになったこともある。
「君、本当に可愛いねぇ」と舌なめずりをするように言って、
「私が君を囲ってあげてもいいんだよ」と言われたりした。
逃げようとすると、ぐいと手を掴み、「この会社の安い給料じゃ、あまり遊べなくて、人生、つまらないだろう」と笑った。お酒臭くて耐え切れない。
聞くところに依ると、花田課長はえらくお金持ちの家に婿養子に入ったらしい。
「放っておいてください!」
私は怒鳴って逃げた。
そして、席に戻るなり、幹事の人にそのことを告げたが、一笑に付された。幹事は「花田課長は酔うと、女の子に冗談を言いたくなるんだよ」と言った。
「私、抱きすくめられたんですよ」
私が猛抗議しても、「それはスキンシップみたいなものなんじゃなかな」とあやふやに返された。
幹事に苦情を言っている時の周囲の視線も冷たく感じた。同情してくれるのは由美子だけだった。
他の女性社員には変な噂を立てられる始末だ。「白井さんって、切れやすいみたいよ」と陰で言われたりした。
あまり騒ぐと逆効果になることが分かった。
だが黙ってもいられないので、後日、総務部長に苦情を申し立てた。
だが肝心の総務の部長はあの田辺だ。話を聞き入れてくれてくれるはずもない。
「すれ違いざにお尻を触られたって・・」田辺部長は笑って、「それは花田くんなりの社交辞令なんだよ。彼はまだ昭和の世界に住んでいるんじゃないかな」と言った。
「でも飲み会の時。抱きついてきたり、愛人にするとか言って来たんですよ!」
私が猛講義しても、
「それは飲み会の時だろう? 飲んでいたら。どんな聖人君子でも取り乱したりするものだ」と撥ね付けた。
「そんなっ」
聖人君子という例えが腹が立ってしょうがない。
私が呆れ果てていると、
「まあまあ、白井くん。そんな怖い顔をせず、もっと気楽に考えたらどうかね。君も長く会社に居たいのなら、できるだけ波風立てずに、穏やかに働く方がいいだろう」
田辺部長の言葉は脅迫だ。ここに居たければ、文句を言わずに働いていればいい、そう言いたいのだ。
「一応、花田くんに言っておくことにするよ」
田辺部長はそう言って、「さあ、早く仕事につきなさい」と締め括った。私の次の言葉を封じた格好だ。
その時の田辺部長の目も厭らしく感じた。だから由美子の勘も当たっている。
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