第7話 セクハラとパワーショベルの記憶⑦

 田辺部長とは部署が違うのでそれほど会う機会もない。だが由美子の言おうとすることは大体予想がついていた。

 由美子は、私のワザと驚く顔を見てこう言った。

「決して、いい意味じゃないからね」

一応、「どういうこと?」と訊ねると、その答えはやはり予想通りのものだった。

 私が訊ねると由美子は、「これは私の勘だけど」と前置きして、「田辺部長は由美子を狙っているわよ」と切り出した。

「えっ、でも田辺部長は妻子持ちよね」

 知っていてワザとらしく訊ねた。妻子持ちだろうが何だろうが、会社の女の子に手を付ける男はわんさといる。

 亡くなった花田課長もそうだった。

 間違いなく田辺部長もその類いの男だ。

 由美子は私の言わんとすることが分かったように、「妻子持ちとか関係ないわよ!」と強く言って、

「だって、私、田辺部長に訊かれたのよ」由美子が言った。

 イヤな予感しかしない。

「なんて訊かれたの?」と私が訊ねると、

「白井さんは、彼氏とかいるのかねって、すごく厭らしい目だったわ」

 由美子はそう言って、「その後、『君は男には不自由していないのかい?』って聞かれたのよ。もろにセクハラだわ」と悔しそうに言った。

 予想通りだ。ああ、もうたくさんだ。

 総務部長がセクハラをしているのだから、救いがない。

 由美子は続けて、「この前なんて、田辺部長が廊下で何を見ているのか、と思って、視線の先を追っかけたら、さゆりの後ろ姿を舐めるように眺めていたのよ」と言った。

「それって、本当に私を見ていたの?」

「もちろん・・だって、その時、廊下にはさゆりのお尻しか無かったもの」

「私のお尻しか無かったって」

 私は吹き出しそうになったが、笑い事ではない。

 田辺部長は第二の花田課長かもしれない。

 おかしなことが起きなければよいのだけど。

 私に関わると、不幸になる気がする。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る