お嬢様、侵略のお時間です。

やぶのき

第1話


「あなたの事が…好きですの」


雲一つない青い空。

燃えるように暑い太陽が照らす屋上で。

高校生の私、月夜美月(つくよ みつき)は目の前の美少女に告白された。


いや〜参ったなぁ。

何てったって私も一応、美少女だし?

そりゃあ性別問わずモテるだろうけどさ。

隣のクラスの田中くんとか橋本くんとか、小林さんだって私のことを好きだって噂だよ。


でもちょっといきなりで、びっくりしちゃった。


それにしても…

「ありがとう、えっと…」

こんな子いたっけ?

脳内データベースを凄い速さで検索したけれど、

目の前の美少女の名前どころか、見た記憶すらヒットしなかった。


迦具夜かぐやヒメといいます。人気者の月夜さんですもの。いちいちクラスの子なんて覚えてないのでしょう?」


「ご、ごめんね…」


とりあえず謝ったけどそんなはずはない。

なぜなら私はクラスの子を徹底的に調べ、上手く立ち回りを……

いや、そんな事は今は良い。


その美少女は水色がかったような透き通る髪色をしていて、ショートヘアだった。

肌も白くて、腕も脚も細い。まるでモデル、いやアイドル、それとも…


「実はわたくし、宇宙人ですの」


そう!それ!まさに宇宙人!


「……え?」


「驚くのも無理ありませんわ。でも、月夜さんには知っておいてほしかったから」


クスリと笑う迦具夜さんの表情は美しくて、つい見惚れ…いやいや!


「宇宙人っていうのは…?」

「言葉通りの意味ですわ。あ!でも普通にこの姿がわたくしそのままの姿ですから安心してくださいまし。タコとか、あたまでっかちとか、触手とか、そういう姿はしていませんの!」

 正直そんなとこは気にしていなかった。

"宇宙人"という大前提がまだ頭に入ってこないんですが。


「どうして地球に来たの?」


とりあえず私は"のっかる"ことにした。

今の時代、そういう子がいてもおかしくないかもしれない。

もし"宇宙人"だと言うのなら、その通り受け入れてあげようじゃないか。


「実はわたくしのお父様がこの星…地球を侵略しようと決めましたの」

「侵略」

「でもまだ猶予があったから、せっかくだしお相手でも見つけようかと思って。ご存知?最近宇宙では流行ってますのよ。地球での婚活は」

「婚活」

「地球での婚活、略してチー活と言うの」

「チー活」


嫌すぎる。


「そして……あなたを見つけた」


じっ…とこちらを見つめる目。背中にじんわり汗が出てきた。

獲物を見つめるような目。もうどこにも逃げられないような気がしてきた。


「一目惚れしたんですの!ですから、わたくしの星に連れて行ってあげる。この星が滅んでも…月夜さんはわたくしと生きていくの」


「…そっか、ありがとう」


何が何だかわからない。

でも、ここで断るとヤバい、そんな気がした。


「すぐ連れていかれるのかな?」

「すぐではありませんわ。正確な日数はわからないけれど、お父様もそんなすぐには侵略に来ないはずですわ」

「そう…」

「だから残された時間はお付き合いしてる二人として、学校生活を楽しみましょう♪」

美しい笑顔をこちらに向ける迦具夜さん。ああ、全てが誤魔化されそうになる。


…でもまぁ、この子の独創性はさておき、美少女なのは事実だ。

こんな美少女と付き合ってる美少女、美少女カップルが爆誕すればクラスの、いや、学校中の注目の的だ。一気に上位カーストに上り詰める事が出来る。


そうだ、よく考えればメリットしか無いじゃないか。

宇宙人の話なんて適当に流せば良いんだし。

そうだよ、うん…よし!


「わかった。付き合お!これからよろしくね」


「本当に!?嬉しいですわ…!」


迦具夜さんはポロポロ涙を流した。

涙、というかビー玉みたいなのが目から零れ落ちてるけど、漫画とかアニメでもよく見る表現だし、きっと世界にはこういう涙を流す人もいるんだろう。

でもこんな風に泣いてくれるなんて…よっぽど私の事好きじゃん。嬉しいな。


「断られたら月夜さんをこの世から存在ごと消すところでしたから…本当に良かった…」


……多分、冗談だろう。


「迦具夜さんはどのクラス?同じクラスじゃないよね?」

「あ…学校に前から"いた"という"書き換え"しかしてなかったのでまだその"設定"をしていませんでしたわ。月夜さんと同じクラスという事にわね♪」


……多分、ジョークだろう。

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