1065話 兄者トラップ


「うわぁ…これ、明らかに妖精の道を無理矢理拡張して壊してる」

「しかしあの方がそんな凡ミスをするなんて…」

 家の手前に妖精の道が普通にできていた。

 でも、ズタズタな状態だし、家の敷地内には入ってこられないはず…

『パパ!これ!』

 マイヤが飛び石を指さす。

 そこには妖精の羽根があり、踏み躙られた跡があった。

『…どうやら妖精を喰らい、羽根を撒くことで擬似的な妖精界を形成したようです』

「それでも、玉藻さんが言ったように兄さんがそれを許すはず…んんっ!?」

 飛び石を触れるとそれは簡単に持ち上がった。

 そして裏にビッシリと文字が記されていた。

『解析しますか?』

 リムネーがそう聞いて来たけれど僕は首を横に振る。

「…これは僕が知ってるやつだから大丈夫。兄さん、とんでもないトラップを仕掛けてるぅ」

 7つの飛び石は7つの門に擬えてあり、犠牲を伴う侵入を行う度にそれは発動する。

 イナンナの冥界下りをベースにしているんだろうけど、まさか兄さん…こういう事を見越して?

「……その飛び石、先程とは違い恐ろしい神気を有しているのですが…」

「後ろの文字を確認したからですよ。木っ端神人だと思っていた相手は本来は大いなる力を持った神だった…それだけです」

 でなければ侵入すらできなかったと思う。

 そっと飛び石を戻し、息を吐く。

「…お前さん方、よくもまあそんな強力な神気を発していた物を間近にして平然としておるな」

「じいじ、慣れて?」

 佑那…お前がそれを言うか…

「慣れるか!それ1つが神といわれても納得せざるをえん位の圧があったぞ!?」

 まあ、そうだよね…誰が喧嘩を売ってきたのかは分からないけど、このセキュリティなら余程の相手でない限りは突破は不可能だし、入った瞬間に地下に封印されるんだろうな…

「あ」

 そっか。

「逃げたんじゃない。封印されたのか!」

「兄さん?」

「板額さん、逃げた相手を追いましたか?」

「追おうとしましたが、飛び石手前で消えました」

 やっぱり…

「一撃を受けてしまったために河を渡りきれなかったということか」

「どういう、事ですか?」

「飛び石はメソポタミア文明における神話の1つ、イナンナの冥界下りを呪術再現したトラップで、これを踏む前後に命を奪った場合、それらの命に対してそれぞれの石が権能、もしくは神格・神気を奪う。しかも返却無しな徹底ぶりです。

 そして最後の飛び石の先は人食い河を模した枯山水。一度はスルー出来た物の、板額さんの一太刀を受けて逃走しようとして血を垂らしたか、河に踏み込み…地下世界に引き摺り込まれ封印されているんだと思います」

 全員が絶句している。

 思います…とは言ったけど、確信だから。

 あんな2種類の呪法を使ってまで対神地雷用意する兄さんのセンスが恐ろしい。

 因みにもう1種類は反閇法。禹歩のようなものを用いて行う指示が書かれていた。

 ただし岩崎家関係者を除くと例外措置までつけて。

 恐らく家のどこかにその例外神を記載した石板があるはず…兄さん、徹底しすぎで怖いですよ?


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