1058話 ソレはアレによって───


 ダンジョンに入って直ぐの広場に白城と黒い靄で形成された人型のような者が相対していた。

 その距離約3メートル程度。

 周辺に人間の気配はなく、白城の後方には重装救命官と護衛指揮官が完全防御の構えを見せるという異常事態だった。

「…どうしてお前がいるんだ!」

「ご挨拶だな我が蜃気楼にして最愛の敵対者よ」

 声と呼ぶにはあまりにも異質な機械音声に白城は憤怒の形相でそれを睨み付ける。

「狼谷穴に騙され惨めな最期を迎えた貴様が何故また狼谷穴の尖兵となっていると聞いているのだ!」

「裏切られ盾を失った英雄さんよォ…俺ァただ落ちてきただけだぜ?この狼谷穴に。空を斬り、虚を斬り、事象を斬り、死を斬り、在を斬った先がここだったのサ」

 耳障りな笑い声を発しソレは白城を見る。

「この世界を壊せば英雄は盾を再び手にしてくれるかねェ!」

 ソレは白城に向かって一歩踏み出し、



 2人の間をナニカが通り抜け───



 霧散した。

「ぁ、え?」

 それが末期の言葉だった。



「…ただいま」

「あれ?メリアさんお帰りなさい…ってどうだったんですか!?なんか凄い騒ぎだったと…」

 僕は戻ってきたメリアさんに問いかけたけど、どうも煮え切らない表情で首を横に振った。

「化け物は死んだらしい。誰が何をしたのか分からない。ただ、白城とソレの間をナニカがゆっくりと通過したと思ったら斬られていて、霧散していたそうだ」

「……んんっ?」

「うん。同じ反応だね」

「どういう事?」

「白城含め全員が同じ事を言っていたよ。しかも確かに奴が居た気配は残っていた」

「えっと、知り合い?」

 あっ、なんか聞いちゃいけない系の話だったかな?

 メリアさんは腕を組んで暫く呻いたあと、ため息を吐いた。

「…とある世界でダンジョン側に寝返った裏切りの慈剣士、そのダンジョンのマスターに使い潰されたハズの存在がいた。らしい」

 らしいて…まあそう言うしかないんだろうけど。

「ただ、その慈剣士というのが異常でな…存在そのものが剣であり、万物全てを斬る事が出来るというちょっと何言っているのか分からない存在だったんだ」

「確かに、何言ってるのか分からないです」

「世界を斬る、神を斬る、概念を斬る…ありとあらゆるものを斬れた剣士であり、武器を持たずともその存在は万物を斬った。無の概念すら」

 えっ?

「じゃあダンジョンの奥も?」

「アレは無理だったらしい。そして無理だったものがもう一つ…白城の盾だ」

 白城さんの盾?って、

「万物斬れてないじゃないですか…」

「はははは!そう揶揄われた事もあったらしいが、揶揄った奴は全員消滅したらしい。まあそう言われたことがヤツがダンジョン側に寝返りを決意した理由だが」

「ただの狂剣士ですよね、それ…」

 斬れない物があるから斬ろうって事なんだろうけど…迷惑だよ?

「だろうな。しかし実力は異次元だったわけで、神を斬り殺した数少ない存在だった。ハズなんだがなぁ…何がどうしたら2人に感知されずに互いの間合いに入り片方だけを一方的に消滅出来る?」

「まあ、僕としてはそんな危険な存在が外に出ずに良かったです」

「…十数名亡くなったらしいがな」

「……探索者は自己責任ですので、救えなかったのは申し訳ありませんが」

「まあ、そうだな」

 メリアさんは「うちらの部隊に犠牲が出なくて良かったよ」と言い残してその場を後にした。

 …白城さんの盾、かぁ…ダンジョンの件が片付いたら調べてみようかな…

 というか、白城さんが前世?持ちとか色々分からないんだけどぉ…本人が聞かれたくないとかかな?というかこのスキルが色々おかしいって事は分かっていたつもりだけど、分かっていなかったんだなぁ…ハァ。


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