1041話 ほんの少し、寂しいだけ


 通話を終えて一息吐く。

「…いっちゃん。凄いわね」

 そう声を掛けてきたのは西脇さんだった。

「?西脇さん、どうかしましたか?」

「課長や巽がどんな状態か…分かる?」

「「~~~!!」」

 2人揃って顔を真っ赤にしてアワアワしてる。

「なんか、はわわ~って感じですね」

「いっちゃんが美人とか侍るって言い出したから…」

「えっ?侍るって側にいるって意味ですよ?皆美人さんじゃないですか」

「でもそれって妻や妾って事と同意よ?」

「侍るとは仕える、居るという事であり貴人に侍ると言う意味もありますから」

「それはそうだけど…」

「それに、親しい人や大切な人は側に居て欲しいって普通のことでは?恋愛や愛欲感情を抜きにしても。僕は皆が幸せそうなのを端から眺めているだけでも十分満足出来ますけど」

 あれ?西脇さん?何で拝んでるんですかね?

「この子何処まで尊いの…でもいっちゃん、その中に貴方がいないと駄目よ?」

「んー…それはちょっと難しいですけどね」

 苦笑する。

 電話が来てハッキリ分かったことがある。

 そろそろこの世界のダンジョンは終わる。

 そうなると次に何が起きるか…簡単なことだ。

 他世界の神の退去だ。

 世界を脅かす存在は居ないわけだから当然だ。

 その時僕はどうなるのか。

 …ゆる姉様やせお姉様が対策を立ててもらってはいるものの、高確率でここには残れないと思う。

 兄さんが人に拘っている一番の理由はこれなんだと思う。

 人であれば何処にでも行ける。

 神は上の世界へ行くのも大変で、下の世界へ下るためには縛りがありすぎる。

 あの電話であちらが僕に言いたかったことの1つはこれだろう。

 ダンジョン側は分かっていなくても他化自在天様は分かっている。

 ただ僕に手を出すなと忠告しているだけなのだから。

 試練として全てを敵に回しても、世界を滅ぼす事になっても、自身の存在理由を失うことになっても、すべき事を行っている。

 ただそれだけなのだから。



「今日はパイ作りです!」

『パイ!』

 と言うことで本日の配信はパイ作り。

 勿論アップルパイやブルベリーパイ、アプリコットパイを作るよ!

「で、一番大変な生地作りは時間の都合上先に行いました」

『ました!』

「サクサク生地を求めてパート・フイユテ…折り込みパイ生地です。ミルフィーユとかに使われ…マイヤ?」

『パパぁ…ミルフィーユも食べたい…』

「もうしょうがないにゃあ~マイヤのためにミルフィーユも作ってあげるよ」

『やった!』


『始まったと思ったらw』

『マイヤちゃんのおねだりに勝てる奴居る?』

『居る分けねえだろ!』

『即オチw』

『焼き菓子勉強になる…なる?』

『ならんわw』


「と言うわけで生地を大体直径20センチ程度の円形に伸ばし、ふちを内側に巻き込んで土手をつくって土台を作ったあとにフォークで底全体に軽く穴をあけて寝かせた生地がこちらです」

『こちらです!』

 マイヤがノリノリだ~

 そんなやりとりをしながらパイとミルフィーユを作っていると、

『パパ、マイヤはパパとずっとずっといっしょだからね?』

 不意に、本当に不意に言われたその言葉に僕は「えっ?」とマイヤの方を向く。

『いっしょに見守るの!』

 マイヤの真剣な表情に僕はマイヤの想いを感じ、愛おしい反面親離れもして欲しい気持ちも混ざり…

「…そっか。ありがとね、マイヤ」

 僕はマイヤの額に軽くキスを落とし、作業に戻った。


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