1036話 相手が思っている可能性の1つ
其処には何もなかった。
しかしナニカはあった。
何も存在しないがナニカはある。
そんな矛盾した空間に僕は居た。
───ああ、夢なんだな。
なんて心の中で呟いていると、声がした。
今の僕だとこれが精一杯か…家族の縁を繋いで何とか目と耳だけを繋げたけど、時間が無いか…友紀、君が幾ら神域で保護されていようともダンジョンは地球を確実に喰らう。多少力があっても人ではとてもじゃないけど太刀打ち出来ないんだ。
あちらには話を付けてある。僕達家族だけでも助けてくれるそうだから、今からでも遅くは無い。こちらが───
うん。遮断遮断。何も情報は得られませんでした。と。
僕はマンションの部屋の寝室から出て箱庭へと向かう。
「やはり、コンタクトがありましたね」
ゲートの側で待機していた白城さんが僕が入ってくるなりそう声を掛けてきた。
白城さんはここからバックアップして貰っていたから…というかそれこそが狙いだったわけだけど。
確かに僕は眠っていたけど、引き込まれてはいない。
あちらが引き込んだと思っていたモノは僕の精神体を模したカメラだ。
そして録画のキーワードは”夢”という言葉。
「うん。僕としてはまだ疑い半分ではあるけど、僕を人と認識しているっぽい」
「…それはおかしいですね。あちらに与した神が情報をリークしているはずですが」
「だよねぇ…結構目立つようなことしているはずなんだけどなぁ」
うーんと考えていると、白城さんがポツリと一言。
「全て裏でお兄様が行っていると思われているのでは?」
「えっ?いやいやまさか…いやでも否定出来ない…?」
「否定しようにも神々が下駄を履かせ、更にお兄様がお膳立てをした…なんて言われた場合、例え佑那さんでも同じようなことが出来そうですし」
佑那の場合かなり攻撃特化になるかも知れないけれど、確かに!
「つまりは僕が神となっているという情報は欺瞞工作と思われている?」
「根拠としてなんだかんだ言いながらも普通に仕事をし、神の座ではなくマンションに住まっているからだと」
あっ…あー…うん。神の位となったのであれば速やかに神界もしくは神域に行くというわけか。
だけど僕は人であり続けることを望んだ挙げ句、神の個人空間を作るつもりが世界を創造しちゃったわけだし?
そりゃあ相手の想像を大きく超えているよね。
でも、それすら相手からすれば「あの兄ならやりかねない」とすら思われている訳で…兄さん、どんだけやらかしているんだろうか。
「僕が神様方の当たり前を行っていないせいで確定情報とならずに欺瞞情報と信じた挙げ句、例え箱庭世界を見ても「どうせあの兄が作ったんだろ?」とハリボテ疑惑が出ていると…僕は神様方の料理番及び神力供給者としか見られていないかも、と」
「そしてもう一つ根拠が」
白城さんが少し言いにくそうにしている。
「まだあるの?」
「神なのに偉ぶらず、料理を作ったりしているため低く見られていた結果、アレで神はあり得ない。精々神人だろうと判断されているかと」
あっ、ヤバい…凄く納得した。
お酒買いに走ったり、色々引き受けていたもんね…それこそ神になった後も変わらずどころかそれ以上受けていた…
確かに、何も知らない第三者からすれば高位の神になったはずなのに一般の神や神人に対しても料理を作ったりしている巫女な訳で…
「…うん。これ本当に関係者以外は信じないね。絶対兄さんが裏で糸を引いているとしか思えないもん」
なるほど納得した。納得したくないけど納得できた!
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