398話 証明と招聘

 スタジオ内の空気が、重いっ!

 いや、僕が怒ったのが悪いんですけど!あれは仕方ないと思う!

 あんなどす黒い思考は流石に…運転席を開けて逃げれば自分ではなく妻子らに目が向くだろう…なんて考えていた人だよ?

 あれ?人間てこんな人だらけだった?

 いい人も沢山いるし、あんな人は1割くらいだよね!?

 えっ?でもうちの親は?お父さんはまだしも、お母さんは?

「あのぉ…ゆーちゃん?落ち着いて?」

「あんなのは滅多にいないレアケースだと思うからね?ゆうくんが闇堕ちとか洒落ならないから!」


『でも一定数いるんだよなぁ』

『下衆外道率多過ぎィ!』

『アレは…うん。ないわ』

『求む、巫女様をデロデロに甘やかす存在』

『巫女様、あなた疲れてるのよ』

『闇落ち巫女…うん。いや駄目だろ!』


「───あ、失礼しました。うん、うちの母親とか、あの人とか、かなり特殊なケースですよね…ちょっと世の中全体が腐っているのかと自問自答してました」

「まあ、少数派ほど声が大きいから。悪い意味で」

「少数過激派ほど声が大きいの間違いだよねぇ」

「…少し、隣のスタジオで頭を冷やします」

 僕はそう言って席を立った。



 気分を変えて、というかこの姿ではない別の姿で瞑想をしよう。

 いつもの女性モードになってスタジオの中心に立つ。

 背骨を整え、肩の力を抜いて目を閉じる。

 人を善悪で判断してはいけない。

 2元3理。陰陽と利益・理屈・感情の基と風水の流れで変わる。

 そこには善も悪もない。

 かつて兄さんが言っていた。

 人である以上は、いや、思考する以上はこれらから離れることはできず、ただ風と水の流れだけは制御することができる。

 ───うん。

 今回の人は陰の利と陰の情だと思う。

 だからそれに対しては本来、陽の利と陽の情を用いての対処が一番相殺できた。

 駄目だなぁ…僕は心が狭い。感情的になっちゃう。

 万人から悪意を向けられても一人の善意を心に留め置く。

「…これは、兄さんに怒られてしまいますね」

 心を整える。

 平らかに、円やかに。

 こういった時はどちらかと言うと道教や仏教の思考にしておいた方が良いのかもしれないですね…

 息を吐く。

 ───人を救うなんて烏滸がましい。ただ側に寄り添えれば、それで良かったはずでは?

「…ええ、確かに。私は傲慢になっていました」

 ───人の心のあり方を否定する事などできない。

「…そうでしたね。自身の心すら分からないのに愚かでした」

 ───ただ貴方は、貴方の善心は間違いではない。性根を見て怒ったのでしょう?

「はい。私は人として、人を意図的に犠牲にして生き残ろう。そしてそれを正当化し他者の罪としようという彼の方の性根が許せなかったのです」

 ───なら貴方はまだ人だ。人であるべきだ。

「…ありがとう、ございます」

 ゆっくりと深呼吸をする。

「…よし」

「いや、よしじゃないし。何今の!」

「えっ?」

「今の声何!?」

「何とは…何がでしょうか?」

「今のゆーちゃんに語りかけていた声!」

 …えっ?

「声、ですか?私以外の…」

 アレ外部に聞こえるものなの!?



──────────────────

12:00更新分で間違いないです。

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