49話 TS化した僕は家路を急ぐ
僕達は数件隣のお茶屋さんに行き、抹茶と深蒸し茶を購入し、試飲という事でそれぞれのお茶を紙コップで戴いて店先のベンチで飲食する。
「…こうして買い食いなんてしたこと無かったので、少し嬉しいです」
少しはにかむ巽さんに嬉しく思いながら僕は特製どら焼きを半分に割る。
[はい、半分こ]
「えっ?」
[おいしいよ?これを食べなかったら後悔しちゃうよ?]
「そこまでですか!?」
[うん]
「では、いただきます」
恐る恐るといった表情で一口食べ、「えっ?」と小さく声を上げる。
[そこで一口お茶をどうぞ。深蒸しでも十分に合うから]
巽さんは言われるがままに深蒸し茶を一口。
「…茶葉の香りが、餡に乗って…えぇ…生地が主役で餡が、いえ、これは両方とも主役なのですね」
[餡が控えめな感じで逆に気になるでしょ?そこでお茶を飲むと甘さが出てくるんだよね。抹茶だとそれが更に引き立つから良いんだ]
そう言いながら僕も一口。
やっぱりおいしい。少し黄身の味が強いのにふわふわしている。餡は少なめなんて事はない。外側こしあん内側粒あんと二種類の餡を使っていて粒あんは少しだけ塩気を感じる。
お茶を飲んで甘さがゆっくりと口の中を広がり、消えていく。
[お爺さん、更に進化してるぅ…]
「そうなのですか?」
[うん。中心の粒あんに少し塩を振っているのは実験的にしたんだろうなぁ…多分このどら焼きだけに]
「だからお婆さんはあんな言い方をしていたのですね」
[うん。帰りにお婆さんに感想を言って帰ろう]
「そうですね」
紙コップに残ったお茶を二人同時に飲み干す。
ごちそうさまでした。
志堂菓子店に寄ってお婆さんにどら焼きのお礼と感想を言うと、
「気付かれるなんてあの人もまだまだだねぇ」って笑っていた。
その瞬間の店内の女性陣が何故か凄い勢いで店内の商品を注文しだしたので、近々特製どら焼きは復活すると思う。
復活して欲しい!少し高くても買う!
と言うわけで帰宅ですが、ちょっと困ってます。
「お願いします!」
気弱そうなメガネ男子に頭下げられてますが、何か?
何でも地域誌を作っているらしいけど、僕達の姿を見てこれだ!と思い三店舗にアポ取って記事にするそうで…その際ちょっと写真を撮らせて欲しいと。
[えっと…僕は色々柵があって今ちょっと人前に出たらマズイと思うんですよ]
「確かにそうですね。一応特任職で下手に顔を広まれば身の危険が…と言いたいところですが」
[んんっ?巽さん?]
「恐らく手遅れでは無いかなぁ、と」
[えっ?]
「いえ、銀行含め結構写真撮られていますので、拡散されているかと」
[これがッ、情報化社会のッ、弊害ッ!]
まあ、それならどうしようもないですね。
「今のショックはなんだったんですか…」
気持ちを切り替えないと保たないことを悟っただけです。
[あ、でも写真を撮られるのはあまり好きではないのですが…]
「では私の方で少々提供致しましょうか?」
んんんっ!?
「確か…ああ、来てますね。これなんてどうですか?」
[……なんで、エクレア食べている写真が…?]
「SP写真班もいるので」
[SPさんの仕事じゃ無いよね!?と言うか誰にSPついてるの!?]
「姫にです」
[僕!?]
ナンデ!?SPナンデ!?
「銀行の際は状況によっては展開できるようATMの所含め数人居ましたが…」
[巽さんが即鎮圧したから…]
「あのぉ…」
「姫。どうします?」
[………僕はどちらでも構いませんよ]
「であれば後日写真データを御社に送ります。宜しいでしょうか」
「あ、はいっ!ありがとうございます!」
巽さんが名刺を受け取り、そこで別れた。
「問題無いかとは思いますが、あとで調査致します」
[えっ?調査?]
「はい。念のためですが」
[あ、はい。お願いします。でもその前に…僕の情報拡散って…メイド服の珍しい人的なものですよね?]
「先程入ってきた情報では…百合スレでしたね。お忍びお嬢様が護衛連れて商店街にいるという…」
───日本、平和だなぁ…平和なのか?
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