第49話  不機嫌なエリサ  

「風の奥方に、探らせたわね?」


「何の事でしょう?」


 悪びれずもせずに、ニコニコと笑うティラン。


「先回りをしてたでしょう!! 絶対そうだわ!!」


 風の奥方は、聖地、【銀の森】の若長を守護している高位の風の精霊だ。


「僕の趣味は、ご存じでしょう?」


 息まいていたエリサは、グッと黙った。


「古書の読み解きとか、古い文献を調べる事よね……?」


 若長わかおさは病弱ゆえに、あまり外から出られなかった。

 そして、父長ちちおさが最高の家庭教師を用意すると、彼の才能は瞬く間に開花した。

 体力のついてきた10代に入ると、古代レトア語はもちろん、呪文である創始の言葉も完璧に覚えてしまったのだ。


 彼の探求心も強くて、家にある古書という古書を読みつくして、今は、光の神殿の古書室に狙いを定めていた。


「実はですね……光の神殿に行った時に、面白い記録を見つけたんです」


 そういうと、ティランはマジックボックスの中から、一枚の記録書を取り出した。その合間にエリサを見て言った。


「15歳で……エルラント・リーア(中位の上クラスの巫女)とは大出世ですね、将来は賢人ですか?賢者ですか?」


「関係無くない?」


 気にしてることを言われて、不満顔になるエリサである。

 15歳で、この巫女の地位はあり得ないのだ。

 神殿は、精霊使いとして高い能力を持つエリサを危険人物として、注視している。巫女の位を上げて隙間時間を与えないようにしていたのだ。

 結果エリサの自由時間は、週に一度の魔法学の授業の時間だけになった。


「そうでもありませんよ、未来で銀の森でいっしょに暮らせることを望んでます」


 ティランの言い方の一つ一つが、皮肉に聞こえてイラつき、エリサは避けているというのに!!


 ティランは、エリサがいくら気分を害していようが、お構いなしに話をしてくる。オアシスで待ち伏せされたのも二度や三度ではない。


 彼には、精霊最高位の風の奥方が守護していた。

 エリサが、風の騎士の力を上手く引き出せるように、ティランは病弱ながら、世間の情報やエリサの動向を、風の奥方に探らせていたのだ。


「まぁまぁ、僕だって西域まで抜け出すのは、簡単ではないんです。オアシスは、ジェドの故郷にいる叔母のところへ行くと嘘を付いていたし、今回は西域で会議の父上について来たんです。

 ついでに、今日が魔法学の授業があったので、この場所のことを風の噂に流しておきましたが……最後に召喚がおこなわれたのが、魔王アグネクトを倒す時だったのらしいのですが、召喚者が記録に無いんです」


 ティランはエリサのことを無視して、勝手に喋っていた。


「だからって、なんでこう現れるのよ!!」


「エリサ!? 興奮しないでください。あなたの声には魔力があるし、は異界の門を開く……」


 ティランが言いかけると、辺りが急に暗くなって、雷がゲイルの大岩に落ちた。


「リザベータ(風の奥方の名前)、僕とエリサを護ってください」


<承知ですわ>


 エリサは、ティランに押し倒されて、地面に頭をぶつけた。


「痛いわよ~~」


「騒がないで下さい、ここは神聖な異界に繋がる門なのですよ」


 ティランは、咳き込みつつ言った。


《ボクを喚んだのは誰ニャ?》


「?」


「!?」


 エリサとティランが立ち上がると、真っ黒な毛の長い猫が二本足で立っていた。


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