第19話  後ろにご用心!

 やがて、ティランがエリサのところに帰ってきた。


「王宮の前の大通りみたいです」


「こんなに人の多い所で、よく精霊を使役できるのね?」


「大したことではありませんよ」


 ディランは、少し顔を赤らめて言った。

 こんなことを他の人から言われるのは初めてなのだ。

 魔法を教えてくれているラルフォン伯父は、優しいが滅多なことでは誉めてくれない。

 正しい呪文と精霊のつきあい方を教えてくれるだけだ。


 ティランの魔力は、かなり強い。

 だからこそ、身体に負担の大きい魔法を使う事は、父長おさや神殿は魔法を習わせることを良しとしなかった。


 だが、母親のカタリナの失踪して二年経っても何の手掛かりの掴めない神殿所属の魔法使いたちに、ティランは、とうとう我慢の限界が来た。伯父のラルフォンに自分で探すんだと申し出たのである。


 妹の身を案じていたラルフォンは、甥の真剣な願いに心を打たれて、自分やカタリナの習ってきた初歩の魔法を教え込んだ。


 ティランの才能は一気に開花した。

 もともと、病弱で本の読むことの好きな少年は、古代レトア語を完全にマスターしていたし、難解な呪文も枯れえあたたようにたように覚えていった。


 ♦️



 大きな王宮を目指して、二人は歩いていた。

 さすがに大国の王都だ。


 だがこの国は、何度も周辺の国に戦争を仕掛けている。

 神殿や騎士団が動く前に、少しの領地をかっさらって撤退してしまうので、神殿も手を焼いていたが、数年前に正式な神殿が騎士団を発足させて睨みを聞かせているためか、この数年は大人しい。


 王宮の前の通りの露店商がアクセサリーを扱っていた。


 そこに行ってみると、他のカタリナの指輪や首飾りも見つけ、ティランは露店の主人に入手経路を聞いていた。


 エリサは、後ろからその様子を見ていた。ティランの真剣な様子には、心を打たれるものがあった。


 背後から、数人の大人が近づいて来る様子を知るよしもない。




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