風と光のフーガ/光の神に愛された精霊使い

月杜円香

第一章  旅立ち

第1話  デュール谷のエリサ

 ここは、銀の森から北東の位置にある広大な谷が大山脈の麓まで続いていた。

 いくつかの村と町があり、総称してデュール谷と呼ばれていた。


「「わ~~すごい!!」」


 歓声とともに拍手がなった。


 エリサは、得意な魔法で薬効のある花を風の力で積み上げて見せる。

 それだけで、従妹のエイミアは喜んだ。


「本当に、すごいカね!!エリサは、何でも出来るんだもん!」


「こんなこと、ここの風使いなら誰も出来るわ」


「そういえば、ミジアは風の魔法で髪を乾かしてたわ」


「あなただって、風の契約精霊を持ってるでしょうに……」


「だって、私はエリサのようには、出来ないわ」


 エリサは、大きく溜息をつく。なんとも無邪気な子である。


 エリサは、13歳であった。

 2つ下の従妹のエイミアは、エリサの事を本当の姉のように慕ってくれていた。

 だが、エリサは素直に可愛いと思えなかった。


「エリサ!エイミア!」


「ミジア!!」


 大叔母のミジェーリアが、2人を迎えに来た。

 ミジェーリアの後ろにいるのは、エリサの父のレフだ。


 騎士団の休暇なのだろう。


 エリサは、父の帰宅も素直に喜べなかった。


 ミジェーリアは二人に、焼き菓子を持って来た。


「今日も大漁だな!」


 レフが、機嫌よく笑った。


 エイミアは、「すごいでしょ?」とレフに甘えて言った。


 それを見て、エリサは余計面白くない。


「明日から、エラドーラに出張治療をするからね。エイミア、ついておいで」


「本当?嬉しい!でも、エリサは?」


 エイミアは、ごく自然に口に出したが、エリサの顔は、思いきり歪んでいた。


 ミジェーリアが、外の世界にエリサを連れて行ってくれたことなど一度もないのだ。


「見事なむくれ顔だね。エリサ、お前には父と母がいる。レフで我慢しなさい」


 大叔母のあまりの言われ方に、レフも言った。


「この、お転婆を俺に押し付けるんですか?」


 レフは思いきりミジェーリアに頭を叩かれた。


「自分の娘になんて言い草だい!!」


「しかし……」


「アリシアも、休暇をもらって来るそうさな」


「だから、この時期に休暇を取れと言ってきたんですね?」


 レフは、妻に弱い。

 思いきり、弱味を握られている。

 だから、彼女がデュール谷の勤務から栄転で光の神殿勤務になった時は、一人で祝杯をあげてしまったくらいだ。


「母様も帰ってくるんだ」


 エリサは、少しだけ機嫌が良くなった。


 二年前に、聖地の銀の森へ行ってから、滅多に会えなくなってしまっていた。


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