空転
大まかなあらすじ、登場人物、プロットを整理して進めていった。
登場人物は、実在の僕らを架空の人物に置き換えていく。
わからない所はぼかし、読み手に想像してもらうように書いていく。
この世界の人達は読み慣れていない、分かりにくくは書けない。
しかし、直ぐに壁に当たった。
何せ、この世界に来て日が浅い。
書いていて、それがどうしても引っ掛かり、筆が進まない時が発生した。
「むぅ。困ったな」
フェイスとの話をしていた時は、やる気満々だったのだ。
しかし、1人落ち着いて書き始めると、「これで良いんだろうか?」と疑問が出てしまう。
それを尋ねる人も傍に居ない。
フェイスやローズ達は、それぞれの皇太子と御令嬢としてやることもあるだろうから、四六時中屋敷にはいられない。
疑問点はマークをしながら、フェイスらが来た時に尋ねるようメモもしながら進めていった。
「うーん。言葉が、表現はこれで良いのか?」
懸念点は尽きない。
夕食を終え、寝るまで机に向かった。
「こちらに来る前は、ノートパソコンでテカテカと打ち込んでいたのになぁ」
手書きなので、スピードは落ちてしまう。
こちらで用意してもらったペンも、若干ペン先が引っ掛かる。
自分の持ってきたガラスペンよりは、書きやすいが。
その夜は、疑問点を整理するだけで、殆ど終わってしまった。
沢山書いても、気にいらなくて没にするかもしれないのだ。
「
使用人の人が気を使って声を掛けてくれた。
「そうですね。もう休みます」
「では、リビングの灯りは消しておきます。何かありましたら、そちらの呼び鈴でお知らせください。移動は、そのロウソクをお使いください。火の付け方はわかりますか?」
「はい、大丈夫です」
「燃えやすい物が多いでしょうから、お気を付けてください。まだ、慣れておりませんでしょうから」
使用人の人は、そう伝え自分達の部屋に戻っていった。
数人の人は、この1階の部屋に泊まってくれるらしい。
(まるで、貴族みたいだな)
貧乏な兼業作家だった自分には、過ぎた環境だ。
だが、これからすることは、ただの小説家はしないであろう、国家間の戦いに巻き込まれていく。
それを考えると、妥当な待遇なんだろうと思える。
僕は少しばかり、途方に暮れた。
(明日の朝、フェイスに聞こう。しかし、それで進まなかったらどうすれば……)
部屋のランプを消し、床に就いた。
部屋の中は真っ暗だ。
カーテン越しに、薄く光が漏れてくる。
(星が、こんなに明るいのだな?)
(振るような星って、こんなんだろうか?)
少し眩しくて眠れないだろうかと思ったが、しばらく窓の外の星空を眺めてみることにした。
まさか、こんな気持ちで本を書くことになるとは、予想もしなかった。
自分の命だけでなく、あの子を、リリィさんを助ける為になんて。
この同じ星空を、彼女も眺めているんだろうか?
夜に活動する仕事のはずだから、まだ起きているかもしれない。
あの仮面の下は、どんな顔なんだろう?
本当に、夢で見たのと同じ綺麗な目だった。
ウッカリ見とれていたら殺されていただろう。
落ちる時に抱きかかえて、初めて小柄なんだとわかった。
それまでは、あの気迫で体の小ささを感じなかった。
どれだけ、試練を乗り越えてきたんだろう。
そして、それでも、あの目に曇りを作らなかったなんて。
「はぁ~」
僕は、思わずため息をついた。
「もうちょっと、話がしたかった」
キラキラと光る星を眺めながら、リリィさんの事を思い浮かべていたら、いつの間にか眠ってしまった。
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