青空

寝室、午前一時過ぎ

　私と娘（むすめ）は二人暮（ぐ）らしだ。一時的に、離（はな）れ離（ばな）れになっていた時期もあったが、娘が五才の時（とき）に同居（どうきょ）は再開（さいかい）された。それから十年が経（た）っている。

　昨日（きのう）は娘の、十五才の誕生日だった。その日も過（す）ぎて、時刻は午前一時過（す）ぎ。私は独（ひと）り、ベッドで微睡（まどろ）んでいた。と言（い）っても完全（かんぜん）には寝付（ねつ）けなくて、それは矢張（やは）り、緊張（きんちょう）があったからだろう。

　廊下（ろうか）を娘が歩く、床（ゆか）鳴（な）りの音が聞こえた。古（ふる）い家（いえ）だから、あちこち傷（いた）んでいて酷（ひど）いものだ。きっと引（ひ）っ越（こ）せば良（よ）かったのだろう。それができなかったのは、ここが娘に取って、思い出の場所だったからだ。それでも他（ほか）の場所へ移（うつ）るべきだった。いつも私は、最善（さいぜん）を求（もと）めては最悪（さいあく）の結果（けっか）を引（ひ）き寄（よ）せてばかりだ。

　寝室（しんしつ）のドアが開（あ）けられて、娘が入（はい）ってくる。私はドアに背（せ）を向（む）ける形（かたち）で、横（よこ）向（む）きの姿勢（しせい）で居（い）る。娘が添（そ）い寝（ね）を求（もと）めている訳（わけ）ではないと知（し）っていたので、私は動（うご）かずに居（い）た。そんな風（ふう）に、娘が私を求（もと）めた事（こと）が、一度でもあっただろうか。そうだったら、どんなに良（よ）かったか。

　見（み）なくとも分（わ）かる。娘は今（いま）、立（た）ち止（ど）まって、私の後頭部（こうとうぶ）に拳銃（けんじゅう）を向（む）けている。弾（たま）は六発（ろくはつ）。何（なに）しろ銃（じゅう）を用意（ようい）したのは私なのだから。私は動（うご）かず、娘による裁（さば）きを待（ま）っていた。