ビリーブ・アップデート

向日葵 のぞみ

第1話 いきなりの来客

「単刀直入に言う。俺に協力してくれ」

「え!? もう一回言ってくれませんか?」

 あまりの唐突さに思わず聞き直そうとしたら、いきなり寮の自室に押しかけてきたその人――バルネラさんはお茶を一気飲みして機嫌を悪そうにしました。

「そうやって誤魔化すな。思っていることをちゃんと言え」

 ため息交じりのその言葉が怖いんですけど! 誰かの役に立つなら喜んでお手伝いを引き受けるんですけど、私がバルネラさん役に立てるビジョンが見えません。

「わ、私なんかで学内主席のバルネラさんなんかのお役に立てるわけがないですよ……」

「なんでそうなる。俺はマーチに直接オファーをしてるんだぞ」

 マーチ、つまり私に直接……?なぜほかの優等生たちがいる中で私なのでしょうか。よくわからりませんが、とにかく私が協力することに何か意味があるようです。

「なるほど……?つまり私に協力してほしいと」

「最初からそう言っているだろ。何回も同じこと聞くんじゃない」

「ごめんなさい」

 ってとりあえず謝ってみたはいいものの、簡単には信じられない話なのも事実です。目の前にいるのはこのインテ魔法学校の主席、学内で常に話題になる人気者です。特に目立たない女子学生である私のどこに興味を持ったのでしょうか。

 そもそも目の前にバルネラさんがいるこの事実自体が立体映像魔法だったりしないでしょうか。大丈夫? 私、誰かに騙されていない?

「うーん、ウイチェ」

 私が呪文を唱えたその瞬間、目の前にいるバルネラさんモドキが消え……ませんでしたね。どうやらバルネラさんが本物であり、悪意を持たないことまで確証を持ってしまいました。

「いきなり何をする!」

「偽物かなって思っちゃいました、でも大丈夫です。私の得意魔法の一つ、悪意のあるものを消し去る呪文『ウイチェ』であなたがバルネラさん本人だってことは確認できましたので!」

「俺を疑うのか……と言いたいところだがマーチ、お前のその呪文が気になっているのだ。」

「あ、さっきの呪文ですか?あれは私がとあるおとぎ話に着想を得て開発したんです。そのおとぎ話の世界では魔法とは異なる不思議なちかr……」

「その話はいらない、ほかにもたくさんの創作呪文があると聞いている。周囲はただのお遊びだと笑っているが、俺はそこに可能性を感じている。まさか噂の女子学生がこれほどだとは思わなかった。改めて言う、仲間になってほしい」

 あ、急に笑顔になりました。まるで入学試験に合格したことを親戚に報告した時の私みたいです。一応国内最高峰の魔法学校だったんですよね、インテ魔法学校。まぁ現実は同級生がすごすぎて自信が消えかかっているんですけどね。っといけないけない、つい余計な事を考えてしまいました。

「バルネラさんの言いたいことがようやく理解できました」

「そうか、ならば……」

「ごめんなさい、今すぐ協力の約束はできません。少し考えさせてください」

「わかった。いきなり協力を頼んだ俺も悪かった」

 思ったよりすんなりと受け入れてくれました。高圧的だけど案外いい人だったりするのでしょうか?


 バルネラさんは部屋に入ってきたときよりもずいぶん機嫌がよくなってきたようで、とりあえず帰ってくれるようです。私が出したお茶の片づけをしようとカップを重ねて運ぼうとしたその時、

「あんな奴に協力する意味とかないと思うぜー!」

と知らない声が部屋に鳴り響き……気が付けばカップを落としてしまいました。私が驚いて固まっていると、バルネラさんはまた機嫌を悪くして、いきなり入ってきた人のほうを向いていました。

「マルーか。まさかそこまでしつこいとは……それにマーチもいるのだ。あまりここで騒ぐな」

「マルーのことはいいんだぜ。それよりもマーチ、あいつはアホだ。協力しておくのはやめといたほうがいいぜ」

 そうしてその謎の声の主――マルーさん? は私のことを見てガハガハと笑っていました。

「いい加減しろ。俺にちょっかいを出すくらいなら少しは自分のことを考えたほうがいいんじゃないか?」

「は!? お前にいわれるとか片腹痛いんだぜ。前回の実技試験で『今回の出来はSランクだ』とか言ってたのに成績がAランクだったり、魔術師倫理の授業で教師にトンチンカンな質問をしていたり……」

「そ、それはやめろ! だ、第一そんなのマルーの勝手な見解だろ!」

「あ、効いてるぜー。そんなに我慢しなくてもわかるんだぜ。むしろ我慢しているその顔が面白いんだぜー」

 なんかいきなり派手に現れて派手にけんかしているんですが。だけど学内トップで有名なバルネラさんならあっさりと返り討ちにできるのでは?

「もういい、とっとと帰れ! スプボ!」

 自信満々に叫んだ呪文で、大きな光の玉が現れマルーさんの方へ飛んでいって……と思ったらポトンと手前で落ちてしまい、玉も銅貨並みに小さくなってしまいました。ってあれ!? 学内トップが魔法に失敗した!?

「煽り耐性弱すぎでしょ……」

 思わず出た私の声に、

「言うな!」

とバルネラさん。これも効いちゃったか、ごめんなさい。

「そうだぜ、お前ははっきり言って弱すぎるんだぜ」

 調子に乗って続けるマルーさん。

「この前も食堂で銅貨と間違えて金貨を出しておばちゃんが困惑してたり……」

 一言ずつが強力な風魔法かのように振り回されているバルネラさん。

「M棟とN棟を間違えて授業に遅刻したり、他にも……」

「やめてあげてください!」

 そして一方的にボコられてばっかりなのを見てられない私。

「マーチっていったか? あいつは今言った通りのアホなんだぜ。あいつに協力するとか考えないほうがいいぜ」

「そんなことは言っていません。煽るのをやめてあげてください、と言っているだけです」

「やめるつもりは無いんだぜ。あいつの何がわかるんだぜ」

「何もわかりません。ただ私は誰かが傷つくのを見ていられない身として、一方的にからかわれているのを放ってはおけません」

「ふーん、まぁいいぜ。あいつを守れるなら守ってみるんだぜ」

 かなり挑発的ですね。私もあのように言ったもののいったい何ができるのでしょうか?

「お前のアホなところはまだまだあるんだぜ、例えば……」

「や、やめろ! やめろって言っているのだ!」

 まだまだ止まらない二人に私は心苦しいのですが、せめてもバルネラさんが楽になれば……そう!  それです!

「もう許せません! トデプア!」

「マーチか、そんなのがマルーに効くはずがないんだぜ」

「何が『効くはずがない』だ? 俺が見込んだのだ。効くにきまっているだろ」

「「……え!?」」

 やりました! 二人とも驚いています。創作呪文の一つ、トデプアでバルネラさんの煽りに弱いという弱点を一時的に補い、ついでにダメージを回復させました。

「お、お前! そんなに我慢しても無駄なんだぜ」

「俺は我慢なんかしていない。むしろ元気になったくらいだ」

「強がりめ、ほんと弱すぎて見てられないぜ」

「そんなことを言っても無駄だ。それ以上からかうのなら本気でいくけどいいのか?」

 バルネラさんがこの世の闇魔法をすべて集めたかのような怖い顔でにらんでいます。どうやら一気に形勢逆転したようです。

「か、帰るんだぜー。じゃあなー」

 それを見たマルーさんはあっさり逃げていきました。撃退したということでいいのでしょうか?

「マルーの代わりに謝っておく。いきなりのことですまなかった。ああ見えても一応俺の幼馴染だからな、ある時いきなり俺をからかうようになったのだ」

「いいんですよ、一方的にやられているのを見ていられない性格なだけなので」

「……そうか。長居してしまったし俺もそろそろ帰るとする。例の件、返事を待っているぞ」

 そうでした、バルネラさんは私に協力してほしいと訪れてきたのでした。

「待ってください」

 ですが、私の中ではマルーさんの件で確信しました。

「協力、させてください」

「いきなりどうした? もう少し考えさせてほしいと言ったではないか」

「先ほどの出来事でわかったんです。私は一見優等生だけど致命的な弱みがある、そんなバルネラさんのことを、放ってはおけません。誰かが傷つくのを、見ていられないんです」

「そうか、いいだろう。俺はマーチを歓迎する。ありがとう」

「こちらこそ、ありがとうございます」

 これで、守ってあげられる。世の中からまた一人、苦しい思いをせずに済む人がいる。本当によかったです。

「ところで、まだ言ってなかったな」

「何をですか?」

「俺の目的だ。俺は、究極の呪文を完成させようとしているのだ。そのためにはあらゆる物を研究しなければいけない。それを手伝ってほしいのだ」

 なるほど、そういうことですか。目標に進もうとしている、その姿は誰だってかっこいいですよね。

「わかりました。協力させてもらいます」

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