第24話(1)

 それから数時間後、捜査は打ち切られ、今日の授業は無しになった。今日中に報告するようにと連絡が入り、あとは自由な時間に使ってもいいと先生が許可してくれたので、私たちは実質、京都駅に放り出された形になる。


「この後何か用事ある?」

「いえ、何も」

「ほんならちょっと買い物行こや」

「え?」

「やってこの前色々着せてみたけど、どれも似合ってるし楽しいねんもん。お金出すからさ、ほらほら」


 手を引かれて服屋さんをあれこれ周る。レースやフリルの付いたトップスから、短いズボン、パーカー、スポーツ系と次々着てはかごに入れられていく。


(お金、大丈夫かな)


 最近ちゃんと欲しい欲しくないが言えるようになってきた。けれど服に関しては、いまだによくわからない。


「すいません、色々買ってもらっちゃって。ありがとうございます」

「お金はあるし気にせんときや。私が買ってあげたいだけやし」

 そんなことを言ってのける人になってみたい。


「お昼食べよか」

「お昼くらい出します」

「え〜? ええのに」


 レストランで席に通されて座ると、脚が疲れたと言わんばかりだった。そのほとんどがさっきまでの服屋なのだが、楽しかったので考えないことにする。


 ふと視線を感じてそのレストランをぐるっと見渡すが、何も変わったことはない。気のせいかと七先輩との話に戻った。私を見て笑っていたあの男の人を見てから、少し感覚が過敏になっているのかもしれない。



 学校に帰ると、取り敢えず服の入った袋を寮に置き、その足で職員室の渡辺先生のもとへ報告に行った。七先輩がほぼすべて話してくれたが、最後の時間の歪みについては私が話すことになった。


「時間の歪み、なあ。それがどんなものかはわかるんか?」

「詳しくは言葉にできそうにないんですけど、無理矢理過去から引っ張ってきたような、そんな引き攣れた歪みでした」

「過去から引っ張ってきた……」


 渡辺先生がうーんと唸る。


「伝術書あったやん? なんかわからんの?」

「過去に戻すっていう術はあります。けれど、それだけじゃない気がするんです」


「《うつつ》だろ、たぶん」


 隣の椅子に座ってくるくる回りながら久々宮先生が言った。


「うつつ?」

「時を今ここで止めて、自分だけ動けるようにする術のこと」

 椅子を止めて伸びをしながら解説を加える。


「なんで先生が知ってんの?」

「んー、先祖代々の教訓」


 知らない? 「清白殺しの時渡人」って、と言われたのだが、なんのことだがさっぱりだ。


「詳しくは言えないけど、時間止められたら俺も厳しいところがあるってこと」


 依然として全くわからないが、とにかく時を止めることができる術があることはわかった。それを使ったらああなるのか、それは先生にも私にもわからないが、使われた可能性は高いだろうという結論になった。


(まだ知らない浄化術があるなんて。もう一度伝術書を読んでみよう)


 部屋に戻ると服のタグを外して畳み、衣装ケースにしまっていく。そのときふとスマホが鳴った。何か用事があったら悪いと思ってスマホを開くと、メールだった。メールなんて全然使っていないのにと不思議に思いつつアプリを立ち上げる。


「何……誰、これ……」

 差出人は不明。メールの欄には、


 見てるぞ。


 悲鳴をなんとか押し殺す。何も添付ファイルはない。


(メールアドレスが漏れてなければ、割れてる人だよね。なんで……誰がこんなこと……)


 気にしない気にしないと頭を振ってメールを削除すると、再び衣装ケースに畳んで入れる作業に戻った。

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