第14話 それぞれの初陣
「海賊船エコーからのレーダー波を感知、ブラボー、チャーリー、デルタの砲の旋回を確認。海賊船が本艦に気が付きました!」
「意外と役割分担してるんだな」
海賊船はそれぞれ違った船を基にカスタマイズされている。アルファは元は採掘船だったのだろう。円盤型の赤茶けた船体下部に装備されたアームを伸ばし、頭から中型船の横腹に取りついている。デルタ、ブラボーとチャーリーは、箱型の見た目から元は貨物船だったことが伺える。平坦な背面に砲塔を取り付けて、砲撃戦用に改造されているようだ。そして、他の船より小柄だが装備が充実しているエコー。見た目も洗練されていることから、元は軍艦か警備艇だったのかもしれない。
「ハ……じゃない、ファースト。警告いけるか?」
『え? 翻訳ソフトってまだできてないんだよね?』
「まあ、義務だからな。なんでもいいから今ある中で、それっぽいの繋ぎあわせてやるしかないだろう」
『わかりました。やってみます』
『大丈夫かなぁ……」
例え相手が海賊であっても先制攻撃は軍規で禁じられている。だが、相手は武装した船を持ち銃火器で武装した犯罪者だ。呑気に警告を行い対応に当たる将兵や民間人が危険に晒されては目も当てられない。その為、警告は現場の指揮官の判断に任せるという暗黙の了解がなされている。
今回の場合、目の前で襲われている船の救出が最優先だ。完全な翻訳ソフトが出来上がるのを待ってはいられない。
『※※※※※※! ※※※※※※※※※※! ※※※※※※※※、※※※※※※※※※※※※!』
次の瞬間、海賊船が一斉にレーザー砲を撃ってきた。赤い閃光が幾条も瞬き、ハツヒメのビームバリアに弾かれる。
『海賊船一斉に発砲!』
「いったい何言ったの!?」
『こちらが他国の軍艦であることと、投降を呼びかける内容を言ったつもりですが……伝わってるかは自信ないですね』
「まあ、仕方ないな」
海賊船からの攻撃は続く。ブラボー、チャーリー、デルタの3隻は、船体に不釣り合いな大口径の単装レーザー砲を2門その背中に背負っている。民間船にとっては恐ろしい火力なのだろうが、ハツヒメとの出力差は歴然であり、到底ハツヒメのビームバリアを抜くことはできない。
「海賊船に投降の意思は無いと判断。砲雷撃戦用意! 目標、ブラボー、チャーリー、デルタ、エコー」
『アイサー! 副砲発射用意! ブラボー、チャーリー、デルタ、エコーに照準』
「発射!」
ハツヒメの両舷、上下4カ所に8門ずつ配置されたホーミングフェイザー砲の発射口が開かれる。
ホーミングフェイザー砲は、電磁誘導砲身で目標を指向し発射するハツヒメの副砲である。本体に直接設置されたことにより副砲ながら口径は61センチと、一昔前の戦艦の主砲にも匹敵する口径を持つ。また、砲塔の旋回が必要無いため、相手に気取られにくく、照準から発射までのレスポンスも早い。4隻の海賊船は既に照準を付けられていることすらわかっていないだろう。
『外道に下った船霊よ、海神の御魂に代わりハツヒメが断罪します! 成敗!』
計32門から白熱したビームが一斉に放たれる。一隻につき8門。碌な装甲を持たない海賊船に対してオーバーキルも良いところだ。4隻の海賊船はひとたまりもなく爆発四散する。
(船霊よ……もし、生まれ変われるなら、次は良き主の下に……)
船に罪は無い。ハツはやむを得ず沈めた海賊船に対して祈りを捧げる。艦の魂、フィギュアヘッドアンドロイドとして生まれた者として、祈らずにはいられなかったのだ。
「初めての実戦だ。大丈夫か?」
『辛かったら言ってね。ちゃんと責任はとるから! あ……じゃない。キャプテン・ソーマが!』
「俺かよ!?」
『艦長なんだから当たり前でしょ?』
独立した思考を持つアンドロイドのメンタルは意外とデリケートだ。特にフィギュアヘッドアンドロイドは、外部とリンクされていない為、個としての自我や個性が強い傾向にある。そのせいもあってか生死に敏感で、土壇場で火事場のクソ力を発揮するなど、軍艦としての強みがある反面、鬱やPTSDに悩まされる場合も見られる。
彩晴と涼穂はハツのメンタルを気遣って声をかけたのだろう。その気持ちに、ハツの目から出ないはずの涙が出そうになる。
(性能にもクルーにも恵まれ、私は本当に幸せ者ですね。ありがとうございます。彩晴さんと涼穂さん。おふたりは私が絶対に地球に帰してみせます)
決意を新たに、ハツは力強く応える。
『問題ありません。ブラボー、チャーリー、デルタ、エコーの撃沈を確認!』
「よし! 残った連中はさぞ焦ってるだろうな。す……じゃなくて、ホーク! ヒエンの準備は?」
『こちらホーク。補修弾の装着作業完了。いつでも出れるよ』
「すぐに発進。アルファを挑発して対空兵器を確認してくれ。くれぐれも無茶はするなよ?」
『了解。ヒエン出ます!』
補修弾の取付作業を行っていたワークドローンに見送られ、フライトデッキから飛び立つ白い機体。
ヒエンは戦闘機というより鳥型ロボットと言った方が正しいだろう。鋭角的な稼働式後退翼に、斬り込みが入ったような特徴的な尾翼。ランディングギアの他に脚部まで装備され、歩行も可能だ。不格好な補修弾をぶら下げているため、その美しさを若干損なっているものの、宇宙を軽快に飛ぶ姿は正に飛燕である。
(あやを撃たせはしない! あやは私が護るんだ!)
涼穂の操縦するヒエンは海賊船アルファをからかうように飛び回る。海賊船側も甲板に装備されたレーザー砲を撃ってきたが、ヒエンはそれを易々と躱すと、フェイザーバルカン砲でレーザー砲を破壊する。
一通り対空砲を潰したと思ったところに、赤い火線が迸った。見るとずんぐりとした宇宙服を身にまとった人影が光線銃を手に甲板に立っている。
(そんなのであやの邪魔をするな!)
涼穂は迷わずフェイザーバルカン砲トリガーを引く。単射で放たれた一条のビームが通った跡には、僅かな
「うっ……」
涼穂はその
(ここで吐くわけにはいかない! あやを支援しなきゃいけないんだから!)
こみ上げてくる吐き気に、涼穂は歯を食いしばって耐える。全ては最愛の幼馴染の為に。
「無茶するなって言ったのに……」
『対空砲沈黙!……すごい。初めての実戦とは思えません!』
「あいつはパイロット志望だからな……VRでの戦闘シミュレーションじゃ、同期6人が束になってもあいつひとりに勝てたことがない」
涼穂は士官学校卒業後は艦載機乗りを志望している。その技量は既に現役と変わらないとの評価を受けており、幾つもの空母や航空部隊が、涼穂をめぐって水面下で奪い合いの根回し合戦を繰り広げているらしい。
(俺にはすずに吊り合うような才能は無い。無いもんは無い! 俺にできるのは理想の艦長キャプテン・ソーマを全力で演じきる。それくらいだ)
初めての実戦。敵船に突入する不安。恐怖で笑う足。握りしめたサブマシンガンのストックで、震える太ももを強く押さえつける。
「こっちも出る、ヒエンはそのままアルファを監視してくれ」
『了解』
内火艇の操縦はハツからの遠隔操作だ。
『海賊船アルファ上部にハッチらしき部位を確認しました』
「よし、そこを突入ポイントとする。ハッチ開放」
内火艇のハッチが開く。彩晴はドローンと共に宇宙空間に躍り出た。
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