第11話 作戦会議
「現着まで20分! 映像出します!」
ハツヒメの望遠カメラが撮影した映像が移される。
中型船に1隻が取りつき、4隻が取り囲む。海賊船と思われる5隻は全て100メートルクラスの小型船だが、民間船を改造したのだろう。それぞれ異なるシルエットをしている。このように、装備に統一性が無いのは、地球の海賊にも見られる特徴だ。
「間違いないな。海賊だ」
「これより海賊船をアルファ、ブラボー、チャーリー、デルタ、エコーと呼称します!」
襲われている船は400メートルほどある中型船だが、既に航行能力を失っているのか動く様子はない。
その状況に彩晴は顔をしかめる。
「砲撃で仕留めてしまいたかったがそうもいかないか」
「はい。周囲の4隻は本艦の砲撃で対処できますが、問題は接弦してるアルファです。これには誘拐された人が乗せられてる可能性があり、また中型船への誘爆の危険から、直接乗り込んで制圧する他無いと思われます」
「だな。だが、一応言っとくが、無謀な突撃をするつもりは無い。だから、まず先にインセクターを投入して、被害に遭っている中型船の状態を確認しよう。こちらが持つドローンでの対処が困難な場合、また、あまりにも危険と判断される場合、突入は出来ない。その場合、俺達の役割はそこで終わりだ。後はこの世界の人達に任せてハツヒメは速やかに撤収する」
海賊退治は宇宙軍の嗜み。ハツヒメにも海賊を捕縛するための一通りの機材が搭載されている。
インセクターとは、蜂型のスパイドローンのことだ。情報収集の他に、装備された麻酔針で制圧任務にも使われる。
彩晴の提案にハツと涼穂が頷く。
「俺達だけで何とかなりそうな場合に限り、海賊船アルファに突入し、これを制圧する。現場でのドローンの指揮は俺が執る」
海賊船内部の制圧にはドローンを用いるが、それには現場に責任者が同行し指揮を執る必要がある。その役目を彩晴は自ら買って出た。
「あや、それは私が!」
「駄目だ」
彩晴は、自分が行くと言おうとする涼穂の言葉を遮る。本来、艦を離れるのは艦長の彩晴より、副長である涼穂の仕事だろう。能力的にも射撃、格闘能力共に涼穂の方が高い。だが、今回に限っては涼穂を突入に回せない理由があったからだ。
「すずにはヒエンで出てもらいたい。そうだろ? ハツ」
「はい。彩晴さんのおっしゃる通りです。相手が地球の艦船ならば、私がハッキングして侵入経路を開けます。しかし、今回それは出来ませんので、侵入するには海賊船の外壁を爆破しなければなりません。スライムを使うことになります」
「あ!」
涼穂も理解したように声を上げる。スライムとは宇宙で空気漏れがあった際使われる補修剤の一種だ。その名の通りゲル状の物質で、気体は逃さず、個体は通すという特性があるため、簡易エアロックにも使われたりもする。
「すずにヒエンで出てもらいたい理由は大きくふたつだ。まず海賊船に対空火器があった場合その破壊。そして、突入部隊が外壁を爆破後、スライムの入った補修弾を撃ち込み、突入経路を確保することだ。これはすずにしか出来ない」
地球製の船なら、ハッキングでエアロックを開き安全に突入できる。だが、今回相手をするのは全く未知の文明の産物だ。外から確実にハッチを開けれる保証はない。また、そのハッチの向う側がエアロックになってるかどうかもわからない。
涼穂の戦闘機の操縦技術は同期の中でも群を抜いている。対空兵器の破壊。そして、外壁爆破後、速やかに補修弾を撃ち込み空気の流出を止める役目は、涼穂以外考えられない。むしろ、ドローンの後を付いていくだけの彩晴より、余程危険で難しい。
「やると決めたからには最善を尽くす。役割分担はこれがベストなんだよ」
「でも……もし、あやに何かあったら、私、もう生きていけないよ」
「すず」
涼穂が震える身体でで彩晴の腕にしがみ付く。彩晴も涼穂も実質これが初めての実戦である。恐くないはずがない。彩晴は思い切って、震える涼穂の身体をしっかりと抱きしめた。
「そんなの俺だって同じだよ。もし、すずに何かあったらと思うと、もう、不安でしょうがない。でもさ、今ここで、襲われている人達を見捨てて逃げたら、俺達は胸を張って地球に帰れなくなる。俺にはさ、地球に帰って、どうしても叶えたい夢がある。すずだってそうだろう? その為にめちゃくちゃ頑張ってきたんだもんな。その努力を、今ここで無駄にして欲しくない」
入学以来、一度も主席の座を譲らなかった涼穂。彼女がどれだけ努力してきたかを、彩晴は知っている。
彩晴と涼穂もまだ正規の軍人ではない。もし今、逃げ出す選択をしても誰も責めたりはしないだろう。だが、彼等の心には一生しこりとなって残ることは間違いない。
「逃げるのは、やれるだけの事をやってからだ」
「あや……」
彩晴は涼穂を放すと、彼女の目の前に拳を突き出す。
「やろうぜ、すず。俺達の……キャプテンソーマとホークの初陣だ。俺とお前ならきっとやれる。絶対大丈夫だ!」
「あや……わかった。一緒に頑張ろう!」
「ああ、それでこそ俺の相棒だ!」
拳を突き合わせる彩晴と涼穂。そこに、後ろから下手糞な咳払いが聞こえてきた。本来咳き込むことがないアンドロイドのハツである。
「こほんこほん! あの……よければ、私も仲間に入れて欲しいんですけど?」
「そうだった! すまんハツ。もちろんいいさ。なあ、すず!」
「そうだね! でも、仲間に入るなら、ハツにもそれっぽい名前がいるね? なんて呼ぶ?」
「そうだな……じゃあ、ファーストでどうだ?」
ハツヒメは漢字で書くと初姫だ。海外の艦オタからは、その美しい見た目から、あえて英語に読み直したファースト・プリンセスの名で呼ばれる事も多い。
「安直……私の時は英語にしたら文句言ったくせに……ハーツで良くない?」
「お前の方が安直じゃないか! あんまり適当だとハツに悪いだろう?」
「私のことはミタッカーなんて雑なのつけようとしたくせに!」
「まあまあ、今は言い争ってる場合じゃありません」
ハツは苦笑しながら、言い争いが始めたふたりの間に入る。
「私はファーストが気に入りました。では、今後ミッション中はそのコードネームで呼びましょう」
「まあ、ハツが良いならいいよ」
「決まりだな。それじゃあ作戦開始だ!」
「「おー!」」
3人で拳を合わせ、ハツヒメの初ミッションが開始された。
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