星をカケル少女:The Girl Who Shifted Through World
かしい
第1話 星を駆ける少女
あてがわれた道を進んでいるような気がする。
たくさんの分かれ道と出会って、私はどちらかと別れたはずなんだけどな。
後ろを振り返ると、いつもそこには一本道しかない。
※
「おはよっ。今日はいつにも増して暗いオーラ纏ってんね。」
「るっさい、寝不足なだけ。」
「なはは」と笑いながら、シナは後ろで一つに結った髪を揺らし、テントから出ていった。間髪入れずに「ふぉぉおおおおおお」と雄たけびが聞こえてくる。
なんだなんだと思い、私は立ち上がろうとする。しかしタイミングよくシナは出入り口の隙間から顔をひょいとのぞかせてきた。
「チョーいい景色。今回当たりだよこれホント。アイ的にはハズレだろうけど景色的には当たり!」
言ってすぐさま顔を引っ込め、再度叫んでいる。
「元気100%うらやましいな。ほんっと。」
そうは言いつつも、しっかり外の景色が気になる私は、言い訳するかのように吐き捨てながらテントの出口をくぐりぬけた。
そこは一面、真っ白な絨毯で敷き詰められていた。
一歩外に足を踏み入れると、ずぼっとジーンズの裾あたりまで沈む。ひんやり冷たい。そこでようやくこの一面の白は雪なんだとわかった。
真っ白な世界を見渡していると、一つの色が目に飛び込んでくる。
「シナ、あれって。」
「ね。私もびっくりした……」
私の人差し指の先では、一本の木が全力で舞っていた。
この世界で唯一の色を見たような感覚に、私は声を漏らしていた。おそらくシナもそうだったのだろう。
「サクラ、だよね。」
確信はあるけど、違和感がぬぐえない。そんな聞き方をしてきた。
「でも桜ってさ、雪かぶってることある?あんな満開なのに。」
言葉で知るほど、頭がその異様さを理解し始め、どんどん疑問符が止まらなくなる。そうしてまた一つ、不思議なことに気づいた。
「ねぇ……シナ。」
「ん?」
「私たち、どうしてこんな薄着で平気なの。」
寒くない。雪が積もってるのに。
服装を見れば、私はジーンズとTシャツに上着としてパーカーを羽織っているだけだし、シナに至ってはショートパンツにロンTだけだ。
シナはこの意味を理解するのに10秒ぐらいかけて、眉間にしわを寄せながら頭を悩ませていた。すると突然真顔になって「あれ、ほんとだ。」とつぶやいた。
鼻先を真っ赤にして、白い息を吐きながら、もこもこの手袋を温めようとする男の子が見えてきてもおかしくない。なんなら手袋をしたキツネさえ見つけられそうなのに、私たちは平気な顔でそこに立っていた。
「ま、でも考えたってわからないしさ。大体最初はいつもこんな感じじゃん。」
「そうだけど、その切り替えはいつも何なの。」
かがみこんでいたシナはすくっと立ち上がり、しっかりその手に握られていた雪の塊を「オラァァ!」という掛け声とともに投げてきた。
割とゴツに近い音がなり、顔面が少しヒヤッとする。鼻はつんと痛い。
「雪合戦でもしてようよ。そしたらいつか何か始まるでしょ。」
暴君に応答なんて必要ない。即座にかがみこんで両手で雪をすくい上げる。固める動作もなしにそのまま投げかけた。
さすがに避けることはできまい。シナの胸元はばさりと降りかかった雪で真っ白になった。
「シナはさ!いっつも手が先に出るの、なんとかならない!?」
「なはは。お互い様だしいいじゃん別に、減るものでもあるまいし。」
「意味わからん使い方せんでもらえるか、ほんま。」
本当に屈託のない笑顔なのがさらに腹立ってくる。ものの数秒で笑い負けしてしまうその笑顔がほんっとうに。
「おいおい、こんな春早くから元気な奴らだな。」
急に野太い声が嬉々とした笑い声の間に割って入ってきた。
ぎょっとした私たちはその姿を視認してさらに身を縮めた。
「元気なのはいいことだ。ついてこい。」
筋骨隆々で長身。存在するだけで相手が委縮すること間違いなし。
何かの毛皮で作ったような衣類で全身をまとっていて、髪もひげも成長していくことを妨げるものがいなかった末路のままだった。
そんな大男は私たちを片手ずつでひょいと持ち上げ、引っ張ってきたであろうソリに放り投げた。もちろん腰を痛めたが、正直そんなことをどうでもよかった。何せソリがとんでもないスピードで桜の木の方向へと進み始めたのだから。
あっけにとられて見つめ合うことしかしていなかったシナがここでようやく口を開いた。
「ねぇ、アイ。今回はちょっとハードそうだね。」
「シナがそういうなら、この世界は地獄回確定か。」
ただ、私は乾燥で少し涙目になりながらも、高速ソリが向かう先をなんとなく楽観的に眺めることができていた。
さてさて今回はどんなところかな。できればほのぼのしてて、穏やかで、それでいてわくわくできる夢のような世界がいいな。
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