第19話 可憐に咲く花
僕は香住さんに会いたくて仕方がなかった。
お見舞いという名目で、毎日のように診療所に通い続けた。
行く途中の可憐な花を、必ず持っていった。
僕達は結ばれる事のない花だと思いつつ持っていったのだった。
「健作さん、いつも来てくださってありがとうございます」
「香住さん、これくらいしか出来ないけど」
「いえ、とても美しい花です」
「私達はこの花のようにありたいです」
「でも、いつかは枯れる日が来ますね」
「いえ、それより、このように会ったらいけないのに‥…」
「そうだね……僕はどうしても、ここに来ることを阻むことができないんだ」
「私達はもう会ったらいけないのですね」
「そうかもしれない‥…」
「それじゃ、あの浜辺へ最後にいかないかな」
「はい」
そして、僕は香住さんと浜辺へ歩いて行った。
「久しぶりに来たのかな」
「そうですね」
「白い砂浜と美しい海が香住さんを引き立たせていいるよ」
「私はもう、私ではありたくありません。どうして、兄妹なのですか」
「そうだね、いっそのこと二人で逃げ出したいくらいだね」
「そうしてください。お願いします。私はついていきます」
「でも……」
「そうですよね……」
「それは正しい道とは言えないかな。正しい道というより……」
「健作さん……」
「どうしたの?」
「健作さん……どうして」
「いえ、私は生きているという意味がよりわからなくなりました」
「それは、僕もだよ。僕は父を支えるということが、一つの道だと思っていたけど、それだけじゃないような気がする」
「私は自分のために生きてはいけないのですか。そうすれば、一緒に……」
「それが出来るなら、僕もそうしたいよ」
「自分の思うように生きられないのですね」
「僕は今は何とも言えない。言えないじゃなくて、言えないんだ」
「悲しいですね、悲しいです」
「それは僕も同じ気持ちだよ」
「想いが叶わないのなら、いっそのこと……」
「駄目だよ、変な事を考えたら」
「でも、辛いです」
「叶わなくても、一度だけ健作さんの胸に飛び込みたいです」
「それは……」
「それ以上言わないでください。もっと辛くなるじゃないですか。ごめんなさい」
「いや、仕方ないよ。仕方ないんだよ」
「それじゃ、今日だけ夜を一緒に過ごしてください」
「何もしないで話をするだけでいいです」
「せめて、触れられない距離でかまいません」
「そばにいてください」
「じゃあ今日は語り合おう」
「はい」
「そして、会うのは最後にしよう」
「それは嫌です」
「駄目だよ、子供みたいなことを言ったら」
「子供でもいいです」
「子供ということにさせてください」
「いや、それはいけないよ」
「本当にわからなくなってきた」
「生きている意味が‥…」
「どうして、想いが叶わないのだろうか」
「いっそ、僕が僕でなければいいんだ」
「でも、そういう訳にはいけない」
「やはり、二人は生きている意味があるんだよ」
「それは何ですか?教えてください」
「私はこうやって、そばにいることくらいしか思いつきません」
「いや、他にすべきことが何かあるはずだよ」
「ペンダントが憎いです。あのペンダントさえなければ」
「そうだね、あのペンダントがなければ、兄妹でなくてすんだかもしれないね」
「私はこのペンダントをあの海に投げ捨てます」
「そうしたら、胸の中に飛び込んでもいいですか?」
「駄目だよ。僕も同じ気持ちだけど‥…」
「お母さんの形見だろう。それができるはずがないじゃないか」
「ごめんなさい。そうですね」
「今日はこの触れられない距離で一緒に過ごそう」
「どうしても、駄目ですか?」
「それは……」
夜がふけていった。
悲しくも二人を置き去りにしながら
はたして、二人は結ばれるのだろうか
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