第14話 沈みゆく

この島は小さな離島、島の地区長が俺の元へ様子を伺いに来た。

どうやら、俺の事が周囲にしれて噂になって心配になったらしい。


「あなたが、村田さんですか?」

「はい、そうですが、何か?」

「いえ、周囲の人がどうやら心配しているらしくて、そして、あなたの家政婦さんからも、相談を受けたものですから」

「大丈夫です。ご心配なく」

「何かあったのですか?よければ私に打ち明けてください」

「実は……」

「そうでしたか……それは辛かったですね。村田さん、自分を忘れることも大事ですよ」

「どうしてですか?地区長さん。どうすればいいですか?」

「それは、あなた自身が考えなさい」

「そう言われても……」

「そうですね。あなたはどのようにして育ったのですか?」

「俺はそういえば養子だったな。」

「元々は何という性だったのですか?」

「加藤です。」

「それなら、加藤に性を戻して見られたらどうですか?」

「そうですね……」


それでいいのか

本当にいいのか……

俺は加藤幸樹でいいのか?

それで、罪を償えるのか?

それで、忘れる事ができるのか?


幸樹さん、痛い

幸樹さん、怖い

幸樹さん、助けて

幸樹さん、幸樹さん


ううう、恵子


お父さん、僕はどうして健作なの

お父さん、お父さんはどうして朝から飲んでいるの

お父さん、お父さん

お父さん、香住


俺は幸樹

俺は恵子を殺した

俺は恵子を愛している

俺は、加藤幸樹


そう、俺は村田幸樹だ

そう、俺は加藤幸樹だ

そう、俺は俺じゃない

そう、何がカリスマ医師だ


ううう、俺は村田幸樹なのか、それとも加藤幸樹なのか

どっちだ



俺は、次第に酒に溺れていった。

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