第6話 織姫になりたい
「私、織姫になりたい」
七夕の日、俺の家で一緒に勉強をしていた従姉妹が突然そんな事を言い始めた。従姉妹が突飛な事を言い始めるのは今に始まった事ではないので、俺はまたかとため息をつく。
「いきなりどうしたんだよ。七夕だからって浮かれてるのか?」
「別に浮かれてないよ。本当に織姫になりたいの」
「なりたいのって言われてもな……そもそもなんでなりたいんだよ? なったら、彦星とは年に一回しか会えないんだぞ?」
「それはそれでロマンチックじゃない? それに、今だったら携帯電話もあるから好きな時に話せるし」
「お前、ロマンがどうとか言うわりに現実的な事を言うよな」
従姉妹の言葉に二回目のため息をついた後、俺は少しだけ胸の奥がモヤモヤするのを感じながら従姉妹に話しかけた。
「……それで、彦星はいるのか?」
「え?」
「織姫になるのは良いとして、お前みたいな織姫の相手をしてくれる彦星はいるのかって聞いてるんだよ」
「彦星? あー……一人候補はいるよ。ただ……」
「……ただ?」
「私の彦星様はちょっと鈍感だし、なってくれるかどうかわからないなぁって思っただけ」
「何だそれ」
従姉妹の言葉に対して呆れていると、従姉妹は俺に顔を近づけてきた。
「な、なんだよ……」
「ねえ、君は彦星になってって言われたらなってくれる?」
「彦星に……」
「そう。ねえ、どう?」
その問いかけに対して俺は首を横に振る。
「……いいや、俺はならない」
「……そう」
「だって、大切な織姫とはずっと一緒にいたいからな。一年の中で一日だけなんて嫌だ」
「……そっか。それじゃあ私も織姫になるのは止めようかな」
「え、良いのか?」
「うん。だって、本当は私だって毎日一緒にいたいもん。一日だけなんて嫌だよ」
「お前なあ……」
従姉妹の言葉を聞いてまたため息をつく中、従姉妹は上機嫌で勉強を始め、それに対してやれやれと思いながら俺も勉強を再び始めた。
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