物理系魔法少女、嘘は通じないらしい
「支部長! 嫌な感じがします。私にダンジョンに行く許可をください!」
前の時よりもすごく嫌な感じだ。
そんな嫌な感じが星夜さんの身に今起こっている。
根拠も何も無い、私の感覚だけど、それでも嫌な感じが拭えないのだ。
支部長は重たい瞼をずっと閉じたままだ。
「支部長!」
「少し静かにして」
普通だったら適当言って止めて来るけど、今の支部長は真剣に考えているようだ。
何かあるのだろうと、私の不安を増幅させる。
今すぐに星夜さんを追ってダンジョンに行きたい気持ちに駆られながらも、支部長の言葉をグッと待つ。
何分経過したのか体感では分からない。そのくらい今の私には余裕が無い。
一秒を刻む度に額から流れる冷や汗が首筋から胸元まで伝わる。
不安は焦りを呼び、かなり制御できるようになった冷気が冷や汗と共に出てしまう。
「⋯⋯やはりか」
「支部長?」
「良いよ。許可する」
「支部長!」
私は喜んだ。
この不安を拭えることに。
星夜さんの身に何も無ければ良いのが一番だ。私の杞憂に終わるだけ。
ほっと胸を撫で下ろしたのもつかの間に支部長は深刻な顔で言葉を紡ぐ。
「大天使が来てる」
「ッ!」
天使を統括する大天使。
性能の良い天使の量産品。
支部長が大天使を警戒している理由は戦闘力にある。
支部長は元々普通の天使であり、戦闘用に造られた訳でもない。
逆に、このような惑星に降り立つ天使は戦闘用に造られている。
「なんで大天使自ら⋯⋯」
「分からないけど。今回は大きく進展する一歩かもしれない。最初から使徒最強である君を向かわせるのは良くないかもしれないけど、行きたいんでしょ?」
「もちろんです」
それを聞いたらなおさら、星夜さんのもとに駆けつけなければならない。
「だから許可する。大天使を捕らえる事も考えておいて」
「分かりました」
私は一度私服に着替えてから、ステータスカードを持ってゲートを通過する。
目の間に拡がったのは、ダンジョンを埋めつくそうとする白色の闇だった。
「ダンジョンを侵食しているのかな? これは天使の力じゃないな」
それでも関係ない。星夜さんがいると思う方向に突き進むだけだ。
闇に触れて、凍らせて力で破壊する。
それを走りながら継続的に行う。既に私の見た目は変化している。
「待ってて。星夜さん」
◆
「ちくしょう」
俺の手にはステッキが握られている。
完全に不意打ちが決まったと思ったのに、直前で射線上からミカエルを外したのだ。
「アナタにこれ以上の手の内がありまして?」
四方八方から迫って来る闇の手足に巨人。
魔石を破壊してもなお残っている巨人は破壊しても意味が無い。
一個だけ魔石を不意打ちで投げたら、普通に回収された。
その一個だけで全ての巨人の核としているのか、一体一体の巨人の強さは全く変わらない。
「邪魔だ!」
パンチ一つで破壊できるモノばかりだが、それでもやはり量が多い。
一気に破壊したくても、全力を出そうとすれば溜めの時間が隙となる。
闇の中を移動する方法も考えたが、何をされるか何ができるのか分からないのでさすがに進めない。
「そろそろ終わらせようか」
「ちぃ」
ミカエルも近接戦に持ち込んで来た。
肉弾戦はいつもなら望むところなのだが、今回ばかりはそうはいかない。
なぜなら、相手には反射攻撃と言う俺にとっては最悪の手札があるからだ。
しかも再生妨害持ちなので、攻撃を受ける訳にもいかない。
「とっ」
ミカエルの攻撃を回避する事だけに集中していると、闇の巨人が攻撃を仕掛けてきて、巨大な手足も迫って来る。
上に向かって高くジャンプし、一旦離れる。
高くジャンプした場所に白色の翼を広げて同じ高さまで迫って来るのはミカエル。
自由飛行を可能にする力があるってのは羨ましいね。
「危ねぇなぁおい」
パンチをギリッギリで回避して、反撃の蹴りを相手の顔面に飛ばす。
が、寸前で俺は止めた。
なんの抵抗もしない事に違和感を覚え、感覚的で朧気だが反射攻撃の予感がしたからだ。
その予感は的中したのか、ミカエルは蹴り出した足に向けていた視線を俺に戻した。
刹那、魔法がゼロ距離で放たれるので小さくなって回避する。
元のサイズよりも少し大きくして着地し、大きく後ろにステップする。
地面には闇が広がっているので拳で破壊する。
「自由自在に身長を変えれるのか」
「今は魔法少女衣装ですが、他にも色々な服に変更が可能ですわ。もしかしたら、見た目も変えられるかもしれませんわね」
「なるほど」
その会話で天使は俺についてあまり知らないって事に確信が持てる。
だからなんだって話だが。
それまで見破られたら、俺に出せる手札なんて無い。
「そろそろ終わりでなくて!」
「まだ、ある!」
俺に残されたミカエルの知らない攻撃、シロエさんは知っているかもしれないが。
いや、知っているからこそ警戒するかもしれない。
「スケリトルドラゴンとの戦いによって俺のアレは普通に使えるになったんだ。知ってるよなぁ」
ただのはったりだ。
「見せてやるよ」
それだけで警戒する。
「⋯⋯ダウト。そのような嘘が通用するお思いでして? 魔力吸収された事は覚えてますわよ」
「誰かにチャージしてもらったと思わないのか?」
「あの時以来普通に使えると言うのなら、そんな言葉はでませんわ。それだと普通に使えるとは言い難い」
「言葉の綾だよ」
シロエさんが歪んだ笑みを零す。
「そろそろ本気で終わらせましょうか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます