物理系魔法少女、煽られた

 拳と拳が重なるタイミングで俺は小さくなり、相手の拳を回避する。


 懐に踏み込み、ミカエルの無表情の顔面に向かって拳を叩き込んだ。


 鈍い音を響かせて、後ろに数歩下がるミカエル。俺は元のサイズに戻る。


 「何をした?」


 「日本人に質問すんなら礼儀を知れ」


 何をしたかと言われても答える内容は一言だ。殴った。


 ただそれだけ。


 突き出した拳以外には反射攻撃の判定はないようなので、安心だ。


 これだったら、身体のどこを殴っても問題ないな。


 「そんじゃ、次行きますか?」


 一撃を受けてもなお、恐れや怯え、怒りさえも芽生えない天使に恐怖を感じる。


 だけどそれがどうしたと言うのか。


 「行くぞゴラァ!」


 「あらあら。わたくしを忘れないでくださいまし」


 下から伸びる刃を足で破壊し、その瞬間を狙って首に突き出された剣を回避する。


 シロエさんの腹に向かって軽く手を伸ばす。


 「女の子を殴りますの?」


 「うっ」


 俺はその一言を聞いて、スピードが落ちて攻撃が回避された。


 そんな阿呆な事をシロエさんの前でしたら、当選のように巨大な闇の拳が伸びる。


 身体を覆う衝撃と痛みに悶えながら、ゆっくりとだが立ち上がる。


 「終わりだ」


 ミカエルから光の魔法が放たれるので、バットで打ち返す。


 強い魔法だけど、打ち返せないほどじゃない。


 「そう言えば貴様、ブレス攻撃は回避とかしてましたね。これならどうですの!」


 シロエさんは肺に大量の空気を溜め込み、一気に吐き出した。


 それが闇のブレスとなって襲いかかる。


 「ちぃ!」


 俺はそれを回避する。


 「これはどうですの!」


 闇の海が質量で呑み込もうと迫って来るが、拳一つで吹き飛ばす。


 ふふふ、とシロエさんが笑いだした。


 「ミカエル様。どうやらあやつは形の決まった⋯⋯いえ、形の分かりやすい魔法は掴めるし打ち返せるようですわ。ブレスのような曖昧な魔法攻撃は破壊するか回避しますわ」


 「良くやった」


 「くっそ。冷静な分析をどうも」


 本当に厄介だ。


 元々は仲間として戦っていた。一緒に戦っていた仲での戦いだ。


 とても厄介である。


 「まだまだ行きますわよ!」


 闇の武器が大量に生産されて、空中に浮かぶ。その全てが俺の方に向く。


 「ミカエル様」


 「ああ」


 そこにミカエルの魔法が乗り、超高速で飛来して来る。


 ステッキを鉄板にしてそれを防ぐ事も考えたが、それだと背後に隙ができる。


 だから俺は祭りでよく見る、大きなうちわにステッキを変えた。


 「全部吹き飛べや!」


 全力で振るったうちわから放たれる強風は如何なる魔法も吹き飛ばす。


 「そのくらいのパワープレイ、すると思いましたわ」


 懐に飛び込んで来たミカエルの拳が腹にめり込む。


 「かはっ」


 体内で何かが逆流し、それを吐き出しながら吹き飛んだ。


 吹き飛んだ先にはご丁寧に、刃を伸ばした闇の壁がある。


 「邪魔だ」


 裏拳で破壊しつつ、俺は止まる。


 反射攻撃じゃなくても十分に強い一撃をくれたミカエルを睨みつつ、未だに歪んだ笑みを崩さないシロエさんを見る。


 「魔法少女になる条件で、心に闇を抱えた女子高生って予測しているんだけど、実際どうなの?」


 「答える必要は無い」


 それはもう答えてるのよ。矛盾してるぞ。


 「そうですわね。少し細くするなら、精神が未熟で動ける年齢であり、心の隙間に入り込めて利用できる相手、ですわ」


 なるほど。だから高校生な訳か。


 「女子の意味は?」


 「わたくしも詳しくございませんが、使徒化してしまうらいですわよ」


 「シロエ⋯⋯」


 ミカエルが表情筋一つ動かさずにシロエさんを見る。そこには怒りはないが圧を感じる。


 しかし、一切怯む事無く、飄々とシロエさんは答える。


 「冥土の土産と言うモノですわ。最期に悩みを解決させてあげる事で、冷静に処分命令を受けてくれるかもしれませんわ」


 ミカエルが俺の方を向いて、言葉を出す。


 「受け入れてくれるか」


 「受け入れる訳ないだろ!」


 「だ、そうだが」


 「それは残念でしたね。では予定通り強硬手段と言う事終わりですわ」


 シロエさんは天使に対して尊敬とかそんな感じのを感じない。


 ミドリさんやクロエさん達のような、天使を崇拝する心が無いのか?


 だけどそれでも魔法少女になって命令を実行している⋯⋯。


 考えてもしかたない。と言うよりも今は考えている暇がない。


 さっきの一撃がまだ完全に再生していない。


 だけど、周囲には闇の巨人が沢山いる。


 「全てに魔石が使っている魔法生物ですわ。圧倒的な力の暴力に圧倒的な数の暴力、頑張ってくださいまし」


 「処分対象を応援して何になる」


 「煽り、挑発と一緒ですわ。相手を怒らせて判断力を鈍らせる。人間特有の戦い方ですの」


 「なるほど」


 大量の巨人が俺を殺さんと迫って来る光景は圧巻だ。


 だけど、魔石があるなら対処は早急に可能だ。


 「オラッ!」


 痛む身体に鞭を打って、ジャンプして一体の巨人の頭に足を着ける。


 下に向かって拳を突き出す。


 「うっら!」


 一体一体確実に破壊していくだけだ。


 しかし、その巨人の中に魔石は無く、俺を包み込むように再生した。


 「あ、言い忘れておりましたわ。魔石を使っただけで、巨人の中にはありませんの」


 「教えてどうする」


 「これも煽りですわ」

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