物理系魔法少女、倒せるまで殴れば倒せるんや

 今目の前で起こっている出来事に俺は頭が追いつかなかった。


 クロエさんの腹から手を伸ばしているのは、シロエさんだ。


 「全く、だるい事をしましたね」


 手を抜くと、そこから大量の血が噴射し、風穴の空いたクロエさんは倒れる。


 それを愛おしそうに抱き抱えるシロエさん。


 「ああ、お姉様。やはりいつ見てもお美しい」


 「シロエさん。君は何を⋯⋯」


 「⋯⋯はぁ。余計な事をしてくれましたわねアカツキ」


 今まで一度も聞いた事のないのドスの利いたシロエさんの声。


 「死に行く貴様にわたくしの目的をお話してあげるわ」


 シロエさんが今まで以上に歪んだ笑みを浮かべた。


 そして話される内容に俺は骨の髄から震え上がる事になる。


 「わたくしはお姉様を愛しておりますの。姉として家族として女として人間として生物として!」


 恍惚な表情を浮かべながら、クロエさんの耳を引きちぎり口に運ぶ。


 咀嚼音を響かせてゴクリ、喉を震わせた。


 「だからお姉様にはわたくしだけを信用して欲しい。わたくしだけを見て欲しい。そのために全てを利用した。友人や教師、両親までも」


 「さっきから、なんでクロエさんを食べているんだ?」


 プルプルとした言葉で質問する。


 髪の毛を口に運びながら、シロエさんは説明してくれた。


 「リセットですわ」


 「リセット?」


 「はい。お姉様は死ぬと一定期間の記憶を失って蘇りますの。何十回と繰り返して、わたくしの望むお姉様に仕上がるまで繰り返すのですわ」


 頬に歯を突き立てて肉を引きちぎる。


 俺はただ、見ている事しかできなかった。


 骨をボリボリと噛み砕く音が聞こえる。


 「死んでしまったお姉様はわたくしと一つになるのですわ。ミドリお姉様から切り離せただけで順調だったのに⋯⋯」


 シロエさんが俺を睨む。まるで仇でも見るような目だ。


 クロエさんの召喚したケロベロスに触れると、体毛の色が白に染まる。


 「殺せ」


 その一言でケロベロスは俺に向かって来た。


 強い殺気を感じる。


 「オラッ!」


 足を蹴り抜きケロベロスの中央の頭を蹴り上げた。


 瞬時に拳を腹にねじ込ませて吹き飛ばす。倒さないとダメだ。


 今ここでケロベロスを倒さないとシロエさんと冷静に会話できない。


 「散れ」


 俺はケロベロスに拳を叩き込んで倒した。


 「主導権を強制的に奪ったせいで、本来の性能は使えない訳ですか」


 クロエさんの姿は見えず、残ったのは口元がから指先まで血塗れたシロエさんだけだった。


 彼女はゆっくりと立ち上がる。


 「貴様も殺して、おの女も殺して、お姉様と二人きりにならないと。シルバーももう使えないゴミなので、処分しないとですわね」


 「お、お前は本当にシロエさんなのか?」


 キョトンとした目をするシロエさんはニンマリと笑った。


 「確認する?」


 どうやって確認するのか、俺には分からなかった。


 彼女はポッケからおもむろに魔石を取り出した。


 「これがわたくしが貴様の知っているシロエと同一人物の証拠ですわ」


 「魔石が?」


 疑問に思っていると、魔石を上に投げた。


 そこに白い闇が集まって行く。


 魔石を中心に闇は広がって、生物のような形を形成する。


 それはまるで、ドラゴンのようだった。


 「まさか、それは⋯⋯」


 「そうですわ。レッドドラゴン⋯⋯スケリトルトラゴンの魔石ですわ」


 シロエさんはこんな状況を想定したのか?


 いや。クロエさんの最初のセリフを思い出せ。そこから紐付けろ。


 仮定を立てつつ、考えろ。


 苦手でも頭をフル回転しろ。


 ⋯⋯クロエさんはシロエさんの事を本当に信用していなかったのか?


 それだったら尻拭いと言う言葉はなんだ?


 クロエさんはシロエさんを妹として、しっかりと愛していて、一定の信用はおいていたんじゃないか?


 尻拭い⋯⋯シロエさんは元々俺を殺そうと思っていたんじゃないか?


 「あぁ本当に、本当に嫌になる」


 最期にその事実を知る事になるクロエさんはどれだけ辛いのだろうか。


 それすら分からないまま、新たな人生を送るのだろう。


 「だああああああぁああああ!」


 俺は地を蹴ってドラゴンに接近して、拳を固めてドラゴンにねじ込む。


 形ある魔法なら破壊できる。


 「硬い」


 「当たり前ですわ」


 俺は吹き飛ばされる。


 「貴様の攻撃によって物理攻撃耐性が高いスケリトルトラゴンの魔石を核としたホワイトダークドラゴン。わたくしの創れる魔法生物の中では最高品質ですわ」


 喜びに満ちた笑みを見せてくれる。


 「あっそ。だから、どうした」


 ここまでキレたのはミカエル以来だな。


 ステッキをバットにして、ドラゴンの顔面をぶん殴る。


 「殴って倒せない魔物はいねぇよ」


 「ふふふ。アカツキ、わたくしのおもちゃになってくださいまし!」


 白い闇が周囲を埋めつくし海にしていく。


 バットを振るって破壊していくが、それでも押し寄せてくる海の勢いは止まらない。


 海から闇の刃が伸びる。


 「しゃらくせぇ!」


 破壊すると、足に闇の刃が突き刺さる。


 「いってぇな!」


 刺さった足を動かして破壊する。飛んでくるドラゴンを軽く殴る。


 「厄介ですわね。戦い方を熟知されていると」


 「舐めるなよ、お子ちゃまが」


 「あら、お口が悪い」


 「お互い様だろ!」


 俺の知っているシロエさんはもういないと考えていかないとな。


 「ふぅ」


 行くぞ!

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