物理系魔法少女、信用されたい
「
大量の手足が俺に襲いかかる。
背中の一撃がかなり重かったが、動けない程じゃない。
逃げてまとまった所を一気に破壊する。
「うるさいですわうるさいですわうるさいですわうるさいですわ」
「ヤンデレかよ」
俺のボソリと呟いた声にも一切反応してくれないんだけど?
やばい状態に入ったクロエさんは俺に一切視線を向ける事無く、闇の手足を向けて来る。
拳一つで破壊を繰り返すが、追いつかない。
「もう誰も信用しない。信用できない。裏切られる辛さをお前は知らない。だから、わたくしの考えなんて永遠に分からない」
「人の考える事なんて本人ですら分かんねぇよ! つーか、天使様は信用しないんですかねぇ?」
俺が嫌味をぶつけてやると、彼女はあまり反応を見せなかった。
ただ、絶対零度の視線で一瞥して来ただけである。
「天使様は信用と言う次元にいませんもの。天使様はわたくしの生きる意味ですの」
「悲しいな」
俺は素でその言葉を出した。
どうして上司のために生きるのが当たり前のように言うんだよ。
「そんなのは生きる意味じゃない。死にたくない言い訳だけだ。生きる意味は他人に与えられるモンじゃない。自分で決めるもんだ」
「わたくしは天使様の手足となって動く、わたくしが決めた事ですわ」
静かに淡々とした声音で言い、闇の手足が迫って来る。
破壊しても破壊しても何回でも再生して襲ってくるその姿はまるでアンデッド。
先日の嫌な戦いを思い出してくる。
「まるで宗教にハマった人間だな。幻想を抱きすぎだろ。相手は君の事を道具としか思ってないのに」
「それがどうしたと言うのですの?」
「ミドリさんやシロエさんは君の事を一人の人間として見ていると思うぞ」
ミドリさんのクロエさんに対する本音は知らないけど、多分そうだと思う。
彼女は自分の事を天使の道具だと思っていたとしても、仲間をそう思う訳では無い。
それだったら、今のこの状況にはなってないだろう。
「それに俺だって、君を天使の道具だとは微塵も考えてないし思ってない」
「はぁ?」
睨みが怖いな。スマイルスマイル。
笑顔の方が可愛いぞ⋯⋯おっと背筋に悪寒が。
セクハラになりそうな心の妄言の冗談は放置しておいて、動きが弱まった今がちょっとしたチャンスだ。
「天使に洗脳された可哀想な女の子って思ってるよ!」
脅しのつもりでステッキをぶん投げた。
かなりの速度だが、彼女は微動だにせず。
回避もしないし防ぎもしない⋯⋯ステッキはスレスレで彼女を通り抜けた。
「甘いですわね。殺しに来ている相手にこのようなマネを。アナタは一度もわたくしを攻撃しようとはしない」
「そりゃあ女の子を殴っちゃアカンでしょ。色々とさ。その点に関して『信用』してくれた?」
「ふ。ご冗談を」
鼻で笑われたんだが?
闇の刃が伸びるのでジャンプして回避する。
「天使様に洗脳ですか⋯⋯そうかもしれませんわね」
まるで自暴自棄の目をしてるなぁ。
なんか魔法少女の子達って心に闇を抱えてないか?
家族に虐待されたり、捨てられたり、クロエさんは裏切りか?
それが条件なんだろうけどさ。
もしかしたら、俺も紗奈ちゃんと再会した時はあんな目をしていたのかな?
だったら、尚更俺が手を差し伸べないとな。
「その発言は撤回するわ」
「はぇ?」
素っ頓狂な声を出したな。びっくりしたわ。
「だって、天使に洗脳されてたら、全力でミドリさんとか殺しに行くでしょ? 知っている分弱点も知っているはずだしね。それをしないのはクロエさん本人に情や葛藤があるからだ。違う?」
「違いますわ」
「はい嘘。違く無いよね。君はミドリさんを尊敬しているし慕っている。まだ天使の意向に迷いがるんだ」
「そんな訳ありませんわ!」
果たしてそうだろうか?
彼女も彼女なりにまだ迷いがあるんじゃないか?
そうじゃなきゃ、俺と闘いながら会話なんてしてくれないだろう。
さっさと殺すために行動すれば良い。なのにそれをしない。
しかも俺が脅すだけの攻撃しかしないと見抜いているため、かなり冷静に観察しているし理解している。
「君は友達や家族⋯⋯信用できる相手が欲しかったんじゃない? 自分の辛く苦しい心を癒してくれるそんな人が」
「そんな妄言ばかりを⋯⋯」
「果たして妄言かな? 君は何回も裏切られては人を信用しているんじゃない?」
眉がぴくりと動いたのを俺は見逃さない。
家族とかに裏切られたのなら、その時点で誰も信用しないモードに入っているはずだ。
なのにミドリさんに裏切られた、ちゃんと信用していた事になる。
信用しないと決めても人を信用したいと思っている。
「もしも天使に助けられたから、その理由で恩義を感じて、手下になっているなら即刻止めろ」
俺は手を伸ばす。
「助けが欲しいなら天使じゃなくて、君が慕ってるミドリさんや君を慕っているシロエさん、力にしか自信ないけど、俺だって何かできるかもしれない」
一度深呼吸して、再び声を絞り出す。
「俺は君が信用に足る人間だと、認めさせたい。君の信用できる相手になりたい」
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