物理系魔法少女、話し合いがしたいのだ
「まるで逃げ惑う子犬みたいですわね」
マシンガンのように放たれる闇の弾丸を走りながら躱していく。
「なぁ、攻撃を止めてくれないか。話し合おう」
「問答無用。不穏分子、天使様が処分が言い渡されたのですよ? 命乞いも遺言も必要ございません。心置きなく死んでくださいまし」
話は何も聞いてくれないのか。
だったら、少しだけ脅すくらいはしても良いだろうか?
俺はクロエさんに向かって方向転換して、猛ダッシュする。
「ふふ。速いだけでこれはどう防ぎますの?」
俺の地面が真っ黒な闇に染まり、それは沼のように俺を沈めていく。
だが、その程度で止まるようでは視聴者から脳筋とか言われてない。
足を全力で動かして、足止めされても進む。
「俺は止まらねぇぞ!」
「あらすごい」
「心にも無い賞賛をありがとうございます!」
俺はクロエさんに拳を軽く突き出すと、彼女は横に大きくステップして回避した。
反撃の鎖分銅を模した闇で攻撃して来る。
「くだらん」
ハエのように叩き落としてから、再び接近する。
俺を近づけまいと、彼女は距離を取りながら魔法を放って来る。
「早く楽になりなさいな。この後はミドリお姉様と決着をつけなくてはなりませんのよ?」
「ミドリさん⋯⋯仲間じゃないのか?」
すると、動きがピタリと止まる。
爪をギシギシと歯で噛みながら、俺をキッと睨む。
自分で名前を出したくせに、俺に言われた内容が心底不快に思ったらしい。
「仲間? あの裏切り者が? そんなわけ無いでしょう。裏切り者裏切り者。どいつもこいつも、わたくしを裏切る!」
地雷に触れたか。
だけど、前のミカエルって奴よりかは全然良いな。
まだ感情があるし、ミドリさんに対する考えもなんとなく分かる。
こんな事になるなら少しでもシロエさんから情報を聞き出した方が良かったかもしれないな。
「ミドリさんが裏切り者?」
「ええそうですわ。くだらない友情を取って、ゴミを助けようと邪な考えを持った。それで天使様に反抗したんですわ。裏切り者ですわ!」
「クロエさんの何を裏切ったのかな?」
「魔法少女としての役目ですわ! わたくしは魔法少女のミドリお姉様をどれだけ慕って、尊敬していたか⋯⋯お分かりですの!」
俺はキッパリと答える。
「知るか」
だって分かんないし。
今日初めて会った人の何を分かると言うのだろうか。
怒りのままに放たれる魔法を拳一つで破壊する。
「イライラしますわ」
「シワが増えちゃうよ」
闇の剣をステッキで防ぎ、蹴りを捻って躱す。反撃の拳を出すが、それも余裕で回避される。
「信用していたのに、ミドリお姉様は他の奴らとは違うって思ってましたのに⋯⋯結局同じですわ」
「⋯⋯それはさ。違うんじゃない。クロエさんが勝手にミドリさんに自分の理想を押し付けていたんだよ。それにミドリさんは人間らしく葛藤しただけ、それを極論で裏切り者、処分と言い渡したのは天使だ」
乱暴な魔法はもう見切った。
当たる事は無いだろう。
時々変則的に計算的に放たれる魔法に関しては破壊する。
落とし穴や巨大な腕と言った物も破壊して行く。
シロエさんと戦い方が少しだけ似ているので、避けるのは容易い。
「考えてよ。ミドリさん個人はクロエさん個人を本当に裏切ったの?」
俺はミドリさんを過剰評価しているのかもしれない。
俺から見たミドリさんの印象だけで言うなら、仲間だったクロエさんを裏切ったとは思えない。
上司である天使の発言に疑問を持って、混乱して、友達を殺すと言う事をしたくなさそうだった。
あの時天使の命令に勝手に身体が動いていたように見えたのだ。
そんな友達想いで仲間を大切にする彼女が、ミドリお姉様と慕う人間を裏切るとは思えない。
彼女からしてみたら、天使の命令に従うのは常識であり、それに背くなら裏切り者なのだろう。
それでもやっぱり極論だと言える。
「ミドリさんは悲しむと思うな。そんな風に思われるの。一度腹を割って話してみようよ」
「うるさいですわ! 黙りなさい!」
「黙らないよ」
言葉で攻めれば攻める程、クロエさんの魔法の精度は悪くなる。
精神力が魔法の制御に直結する。
放たれる魔法によって俺は使用者の感情や考えってのが少しだけ分かるんだ。
公私共のパートナーが感情によって魔法を無意識に使ってしまうから。
「クロエさんは自分の理想像を持っているんだ。それが壊れるのが嫌で、怖くて、否定しているんだ。現実から目を背けているだけだ」
「違いますわ! わたくしはあの
「そのクズって呼ばれている人は誰か分かんないけどさ。ミドリさんは君にとって特別なんだろ? 他の人達とは違う呼び方をしているのが証拠だ」
他の人の事を言葉に出していたかは疑問だが、ミドリさんを区別視しているのは間違いないだろう。
だからずっと「ミドリお姉様」と言っている。
しかし、自分の中の恩義や義務感によって天使に従い、ミドリさんを殺そうと考えている。
だいたい、本気で殺そうと思ったら、ミドリさんは案外簡単だ。
子供を人質にすれば良いんだから。それだけで彼女は力を使わない。
それをしないのは無意識的にまだ、心のどこかで憧れや慕う気持ちがあるからだ。
シロエさんは言っていた。
姉は誰も信用しないと。妹さえも。
だから信用して欲しいと。
クロエさん。彼女に必要なのは信用できる存在だ。
それが今は天使、だから天使の手下として責務を全うする。天使に従う。
情の欠けらも無いアイツらに。
「今一度、真剣に、冷静に、自分の心と向き合うんだ。君はミドリさんの事を⋯⋯」
「うるさいですわ」
俺の背中に鈍い衝撃が加わる。
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