物理系魔法少女、が〜パクっ

 空飛ぶドラゴンに肉薄して、バットを振るう。


 だけど、毎回余裕を持って回避されるために攻撃が空振りに終わる。


 風圧もあまり有効打には思えない。


 「やっぱ、空を飛ぶのって卑怯だと思うんだ」


 「ドラゴンから見たら正々堂々だと思いますわ」


 ドラゴンが口の中に炎を溜める。


 ブレス攻撃が来るのだろう。


 「これは防ぎますわ」


 シロエさんが白い闇で壁を形成してブレス攻撃を完璧に防いでくれる。


 『ちまちま攻撃してんな!』

 『近接戦は不利だと思ったのかな?』

 『そもそもドラゴン相手に二人で立ち向かえているのがおかしい』


 ブレスが止まったと同時に壁から飛び出て、ダッシュジャンプで接近する。


 ドラゴンは回転して回避し、反撃の爪を突き立てる。


 「らっ!」


 ギリギリでその攻撃をバットで弾き、逃げられる前に爪を掴む。


 片手の力で強く握り、自分の身体が振り落とされないようにする。


 しかし、強く回転をかけられて俺は地面に向かって叩き落とされる。あまりザラザラしてなくて、滑る爪だった。


 「トラン⋯⋯」


 「大丈夫!」


 俺は強く地面を殴って落下速度を落として着地し、再びジャンプする。


 普通の攻撃は当たらなそうだ。


 「だったら、こっちだよな!」


 回転を乗せて、ステッキをドラゴンに向かってまっすぐとぶん投げる。


 そのスピードは俺がドラゴンを直接殴るより断然速い。


 なのに躱した!


 俺の投擲する予備動作で何かを察知したのか、離れるように回避しやがったのだ。


 「普通の賢いのやだな!」


 ステッキを手に戻す。


 「くらいなさいませ!」


 シロエさんが白い闇の弾丸を高速で大量に放つと、ドラゴンは翼を閉じて防御姿勢に入る。


 「今ですわ!」


 「おっけ!」


 俺はステッキを野球ボールにして、全力で投擲する。


 俺が全力を出す時、演出として全力の部分が強い光を発する。本当に迷惑である。


 俺が全力で投擲したステッキを翼でモロに受けたが、落下しながら姿勢を直して、再び空高く飛ぶ。


 『アカツキサポートをしっかりしてる』

 『とにかく攻撃を当てさせれば良いもんな』

 『なかなかの名コンビ』


 ドラゴンが火球を飛ばすので、一旦それを受け止める。


 熱い。かなりの熱量だ。


 手が焼けていく。


 だけどその程度で弱音を吐く俺じゃない。この程度の痛みならもう慣れた。


 「時速170キロの急速じゃオラ!」


 ドラゴンが放った巨大な火球を、全力でぶん投げる。


 デカい分、減速率がかなり高くて、範囲は広くても簡単にドラゴンに躱された。


 しかし、回避した先にはシロエさんの魔法によって放たれた俺がいる。


 「まずは一発目、地に落ちろや!」


 俺が拳を振るうと、ドラゴンは前足の爪に炎をまとって反撃して来る。


 爪と拳が衝突し、互いに吹き飛んだ。


 「しゃっ!」


 『墜落した!』

 『チャンスじゃん!』

 『ファイトだ!』


 俺がドラゴンに向かって接近する。


 「拘束しますわ!」


 ドラゴンを空に逃がさんと白い闇が囲んで行く。


 その闇の中に躊躇なく入り込み、ドラゴンと目と合わせる。


 「近距離ブレスなんて、恐れるに足らず!」


 接近した俺にブレスを放って来たが、近くだとそこまで広範囲では無い。


 回避は余裕。


 懐に入り込むようにしてブレスを回避し、ステッキ顎に向かって、手首のスナップを利用して投げる。


 ガコンっと口がしまったので、ブレスは止まる。


 「二発目!」


 俺がドラゴン本体に拳をねじ込ませようとした瞬間、横から強い衝撃に襲われる。


 尻尾の攻撃だ。


 「吹き飛ぶ訳には、いかねぇよな」


 足に力を入れて地面にめり込ませ、少しでも動きを止める。


 尻尾に手を回して、力強く捕まえる。


 「ドラゴンがなんぼのもんじゃない!」


 力任せにドラゴンを持ち上げて、後ろの地面に向かって叩き落とす。


 受身を取ってすぐさま体勢を直したドラゴンはブレスを放ちつつ、空に向かって行く。


 「いかせませんわ!」


 ドラゴンよりも上空にシロエさんは闇を伸ばして足場にし、立っていた。


 空に掲げた手によって展開された魔法陣から、大量の闇が落下して来る。


 「グゴアアアアアア!」


 ドラゴンが自分の爪に炎をまとって、それを振るう事によって斬撃となって飛ばした。


 闇の魔法を次々に破壊したが、闇の方が押していく。


 質と量の勝負、今回は量の闇が勝ったようだ。


 ドラゴンは闇の雨によって地面に落とされる。


 「行くぜ!」


 俺がその落下したドラゴンに肉薄して、拳を固める。


 起き上がったドラゴンは瞬時に反応して、パンチを回避した。


 口を大きく開いて、俺を口に入れる。


 「くっさ!」


 めっちゃ臭い。


 鉱石を主食にしているだろうに、どうしてこんなにも臭いんだ?


 あ、もしかして歯磨きしてませんか? お口のケアはしましょう。


 だいたい、自分の火でそう言うの消せないのかな?


 『アカツキちゃんが食べられた!』

 『むしろチャンスまである』

 『マジカルパンチ!』


 俺がくだらない思考を巡らせていると、少し開いた口から光が入って来る。


 結構な高さに飛んでいるらしい。


 「やべっ」


 ドラゴンの喉奥から炎が立ち上って来る。


 これは火球だな。


 「オラッ!」


 だったら、放たれる前に殴れば良い!


 俺が拳を突き出したタイミングと火球と一緒に吐き出されるタイミングが一緒だった。


 体勢を崩したせいで、上手くパンチが決まらなかった。


 全身を火球に包まれる。

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