物理系魔法少女、忘れ物した

 「なんで俺なんだ? そう言うのはアオイさんの方が得意そうだし、実力面で考えるならミドリさんだ」


 俺を頼る理由が全く分からん。


 だいたい、面識の無い俺よりも少しでも面識があるであろう他の人達に頼るのが普通だと思う。


 その点を考えると怪しさしかないんだけど。


 「確かにその通りですわ。ですが、わたくしと会った事のある方はお姉様も同様、なのでアカツキさんを頼ろうとレベル4のダンジョンを回っていたのです」


 「それをピンポイントで当てたのか?」


 「戦い方的に地盤の良く、配信で使えそうな場所と言う目星は付けてましたわ」


 配信でも俺の事は知っていると⋯⋯姉はどうなんだ?


 その姉とどんな関係なのかいまいち分からない。


 「ふむ」


 協力する必要性を感じない。感情的に考えても、やる必要は無いと思っている。


 本気で困っているようには見えないし、信用されようと考えているなら人に頼るのは間違っている気がする。


 俺も頑張って考えているが、それだけでなにかの答えが出て来る訳じゃないけど。


 「助けてはいただけないでしょうか? わたくしはお姉様と、昔のように仲良くしたいのです。でも、わたくし一人の力では、話を聞いてくれないのです」


 どうしようもない、ね。


 俺は諦める事も肝心だと思っている。一人で信用されるのを諦めている。


 姉の知っている相手だとすぐに敵対されてしまう。


 「ん〜具体的に俺はどうすれば良いの?」


 「はい。お姉様にわたくしと対話をしていただけるように説得して欲しいのですわ。それが無理そうでしたら、逃げないようにして欲しいと思っておりますの」


 逃げられるのか?


 「お姉さんはダンジョンに来るの?」


 「はい。稀にですが。その際には連絡を入れますわ」


 そんな流れで俺はシロエさんと連絡先を交換して、シロエさんをゲートまで送ろうとする。


 その帰り道、血塗れた人間を発見した。


 「大丈夫ですか!」


 俺は近寄って、生存を確認する。顔をぺちぺちすると、ゆっくりとだが重たい瞼を上げる。


 「に⋯⋯」


 「に?」


 「にげろ」


 短くそう言って、その人間は瞼を抵抗を見せながら下げた。


 まだ脈は動いているし、生きてはいる。


 つーか、目の前で死なれるのは精神面的に良くない。


 「回復薬を⋯⋯」


 俺はリュックから回復薬を取り出そうとしたら、シロエさんが手を伸ばした。


 「上級回復魔法ハイ・ヒーリング


 緑色の光に包まれた男の傷は徐々に回復していき、苦悶の顔は安らかに変わっていく。


 回復魔法⋯⋯白闇の魔法少女と言っていたが、回復魔法が使えるのか?


 てっきり、白色の闇の魔法を扱うと思っていた。


 「何から逃げろと言ったのでしょうか」


 「俺はこのダンジョン初でなんも知らん。ゲートまで運ぶ」


 俺は男を担いで、ゲートに向かって走る。


 走っている途中で、幻術の空間に囚われた。


 最近、この辺の違和感を敏感を感じ取れて、幻術などが感覚的に見分けられるようになった。


 「この辺か?」


 俺は壁際だと思われる場所に停止して、蹴りで破壊する。


 形があるか分からないけど、この辺は普通に破壊可能だ。


 「結界ですわね。良く気づかれましたね」


 「最近、同じような物を見たからな」


 ゲート付近にある自衛隊のテントに運んで、寝転がす。


 とりあえず、危険そうなのでこのダンジョンはやめて帰るか。


 ⋯⋯ヤバい。


 「リュック置きっぱだった」


 あそこには高いカメラと紗奈ちゃんが作ってくれた弁当がある!


 あれはダンジョン探索の楽しみの六割を占めているのだ!


 何よりも、俺が食べなかったから紗奈ちゃんがどうなるか目に浮かぶ。そんなの俺もヤダし。


 「ごめんシロエさん。俺ちょっと忘れ物を取りいかないと」


 「いえいえ。協力してもらうのはこちらですので、お供しますわ」


 「めっちゃ要らない」

 「お供しますわ」


 俺は真っ白な魔法少女を連れて、忘れ物を取りに来た道を戻る。


 彼女のスピードに合わせるのは時間の無駄だと思ったので、持ち上げてダッシュする。


 「これは楽しいですわ」


 「前が見えねぇ」


 来た道を真っ直ぐ戻ったつもりなのだが、リュックが無い。


 魔物に持ち運ばれたのかもしれない。必死に探す。


 「ヤバイヤバイ。包はお手製だし、弁当なんて朝から気合い入れてるんだぞ」


 そんなの魔物なんかには絶対にやらない。


 紗奈ちゃんの手作り弁当は俺のもんじゃ!


 「周囲を破壊しながら、探す方が効率的か?」


 「そのせいで散らかって、荷物が下敷きになったら大変ですわよ。それで潰れたら目も当てられませんわ」


 「⋯⋯確かに」


 俺は固めていた握り拳を解除する。


 「⋯⋯」


 シロエさんは「この人マジでやる気だった」って言う感じの目で見て来る。


 「でもどうしよう? GPSどころか、スマホも全てリュックの中なんだけど」


 「そうですわね。一つ一つ情報を整理していきましょう」


 「おお、頼もしい」


 なんか立場が逆転している気がしないでもないが、きっと頼りになるだろう。


 「まず一つ」


 「はい」


 「多分、リュック置いた場所はここでは無いです」


 大前提が違ったんだけど!

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