人気受付嬢、質問には答えて欲しかった
神器を奪う任務を任されたアンチニズムの構成員である女性が痛む身体を支えながら路地裏を移動する。
予想外の実力を発揮されて帰還しようとしている。
任務も果たせずに帰れば、処分が言い渡される事は容易に想像ができた。
それでも、あの力を伝えなければならないと言う思いで足を進める。
しかし、そんな組織ですら把握できてない譲歩網を持つ存在がこの街には存在する。
そしてそんな存在から情報が渡る、とても理不尽な存在に。
(寒い)
秋も終わりを迎えようとしているこの時期にしては、とても寒い気温。
女性はすぐに意識を切り替えて、この寒さはありえない事に気づく。
特殊な訓練で寒さへの耐性スキルは獲得しているのだ。だと言うのにかなりの寒さを感じる。
その異常性は建物などにも影響が出ており、氷ができ始める。
「君はどうしてあの人を狙ったのかな?」
「⋯⋯ッ!」
女性は訓練官を化け物だと思っている。しかし、目の前に現れた女性はそれ以上の存在だとすぐさま自覚する。
化け物と言う安い言葉では収まらない怪物がゆっくりと、周囲のように凍りついた表情と共に歩みよって来る。
逃げようと判断して、軋む身体に鞭を打ち、踵を返すが時すでに遅し。
逃げ道などとうに塞がれていた。
「答えて。どうしてあの人を殺そうとした」
冷徹に冷酷の瞳、そこに温かみや優しさと言うのは欠片も入ってない。
静かに述べられた質問に彼女は返答しない。無駄な情報は与えない。
戦ったらどうなるか目に見えている。ならば選択肢は一つ。
情報を持ち帰れなかったのが悲しいところである。
相手に情報を奪われないためにスマホなどは持ち歩いていない。
それが仇となった。
「さらば」
隠していた投げナイフを取り出して、自分の首に向かって突き刺した⋯⋯はずだった。
本来なら首を突き刺して死ぬはずだったのに、そのナイフは刺さらなかった。
本来感じる痛みとは真逆の冷たい肌触りが首とキスしている。
ナイフを持った手をまじまじと見る。
「なんっ」
狼狽する。
目の前に立つ彼女が何をしたのか全く分からなかった。何もしてないように見えた。
だが、彼女の手はナイフごと完全な氷に閉ざされている。
刺さらないように丸みを帯びて。
訓練でも実践でも感じて来なかった恐怖が彼女の心に灯る。
「で、なぜあの人を殺そうとした?」
怒りの煮えたぎる心を沈め、再び静かに同じ質問をした。
舌を噛みちぎるつもりで口を動かしたが、氷の球体が挟まってできない。
手で自分を殺そうとしてもできない、息を止めても無理やり冷たい空気が入れられる。
自ら死ぬ事もできず、逃げる事も叶わないと悟った彼女は、ただ黙ってその場で膝を折った。
何をされても何も言わないと言う決意を胸に。
◆
「ん〜神器ねぇ。そんなのあるんだぁ」
「支部長でも知らない事あるんですね」
「そりゃあ全知全能って訳じゃないし」
紗奈、影の使徒であり友人であり同僚、生の使徒でありギルド支部長、そして今回捕まったアンチニズムの構成員。
「まさか星夜さんがそんなを持っているとは⋯⋯あの文字化けスキルですかね?」
「だと思うよぉ。まぁ、自分がいるこの街で悪さはさせないけどね。治安はギルドが守るよ」
同僚が握り拳を作って、天井に掲げた。
「おまかせくださいっす! 紗奈ちゃんのプンプン顔(本気の)は怖いので、全力出すっす!」
「今までは全力じゃなかったって事でオーケー?」
「ノーっす」
そんな雑談をして、一旦記憶をいじくり、洗脳を解除してから世に還した。
影にとあるモノを仕込んでいるので、悪さをしてしまいそうならすぐさま止める事が可能だ。
拠点を正確に割り出すためにも泳がせる必要はある。
「それで支部長、神って本当に居るんですか?」
「居ないと思うよ。加護だって結局はスキルだ。天使の加護は監視とかなどの目的もあるだろうけどさ。もしも神が居るなら、こんな世界にはなってないでしょ。神器もダンジョンが生み出した創造物に過ぎないさ」
支部長の出した結論を端的に述べた。
神の加護を所持していても、それはスキルに他ならない。
特別何かがある訳でもなければ、神が存在する証明にもならない。
同時刻、とある空間で支部長と鎖に繋がれた悪魔が対面していた。
「それで、言い訳はあるかな?」
「貴様! こんな事して良いと思ってんのか!」
「思ってます思ってます。だいたいさ、魔法少女達の子との関係悪くしてどうするのさ。バカじゃないの」
前にアオイの怒りを増長させた怒りの悪魔である。
「天使を追い払うなんてみみっちいマネしてるからだろ! 天界に乗り込んで全滅させりゃ良いんだよ!」
「天界には天使の魂が持つ力が必要なんだよ。だから行けないの。交渉できないの? お分かり?」
それでも怒りの悪魔の怒りは収まらない。
常に何かしらに怒っている怒りの悪魔との会話はとても疲れるのである。
「さっさと解放しろ! 俺様を誰だと思ってるんだ!」
「はぁ。なんでお前程度が上から目線なんだよ。所詮はレプリカの分際で」
支部長の声のトーンが数段下がった。
まるでゴミでも見るかのような目で、怒りの悪魔と対話する。
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