物理系魔法少女、その程度じゃ驚かん(命を狙われています)

 アンチニズムと言う、神器を悪用する組織がこの辺に拠点を持った情報を手に入れた。


 俺も神器を持っているので、狙われる可能性は十分にある。


 そのために忠告を貰った。


 こんな光るだけの神器で見た目も分からない奴を欲しがるとは思えないが、それでも警戒しておく必要はあるだろう。


 件の炎が沈静化しない限り、外を出歩く時には魔法少女に変身する必要がある。


 変身すると神器の力ってのが漏れてしまうので、見つかりやすい。


 実際、それで佐藤さん達には見つかったのだから。


 さすがに街中で襲われる事は無いと思っているので、今日のところはアルファの状態で普通に帰る。


 いや、念の為に一号さんの視線が切れたら、訓練場の時に使った見た目を思い出して、そっちに変わっておく。


 他のプリセットをあと一つくらいは用意しておくか。


 特に変化も無く、誰かとすれ違う事も無く、俺はマンションに到着した。


 「あーいや? なんか変だな」


 俺はここに来るまでに誰ともすれ違っていない。と言うか、人一人を見かけてすらいない。


 それはおかしな違和感を俺に与えた。


 「マンションの前にも張り込みしてたよな?」


 なのにどうして居ない?


 そう疑問に思っていると、背後から何かしらの気配を感じとったので身体を捻り、回避する。


 伸びて来ていたのは棒のような物だったが、鎖で繋がっておりもう一つ棒があった。


 ヌンチャクと言う武器なのだろう。


 その武器を扱った人であろう人物の方に目を向けると、両目を前髪で隠した女性が立っていた。


 「えーと、どちら様?」


 「⋯⋯」


 質問は言葉ではなく攻撃で返された。


 ヌンチャクの素早い動きで攻撃をしかけて来るが、俺はそれを全て避ける。


 建物を破壊しているのに、全く気に止めてないな。


 「ん?」


 この建物も違和感があるな。なんって言うか、精霊と言うか幻術って言うか。


 「もしかして、この区間そのものが別世界?」


 「隔絶空間、裏の世界」


 「なにそれカッコイイね」


 ヌンチャクを扱うキャラは無駄な様に見える、身体を使って高速でヌンチャクを動かすアレを行う。


 彼女もその例に漏れず、無駄にカッコつける動きをして、伸縮自在のヌンチャクを伸ばして来る。


 速度は大して変わってないので、それを掴み取り、引っ張る。


 「ちぃ」


 「ねぇ。君ってアンチニ⋯⋯に⋯⋯ニンニクって組織の人?」


 「アンチニズムだ!」


 あ、なんか怒らせてしまった。


 ヌンチャクを手放しているのだが、彼女にまだ武器があるのだろうか?


 とりあえず砕いておこう。奪われると厄介そうだし。


 俺はヌンチャクを扱えないので邪魔になる。


 「ふんっ!」


 「投げナイフか。良いね」


 手の平をぶつけて生み出す衝撃波で投げナイフを地面に転がす。


 このくらいの実力ならレベルの差はそこまでないのだろう。


 「これなら!」


 煙玉を地面に投げて一面を白にするので、拳を天井に向かって突き出して薙ぎ払う。


 「おや?」


 視界が晴れるとそこには彼女は居らず、だけど空間は健在だった。


 どこから来るのかと警戒していると、まるで空間と一体化したように、ニョッキっと出て来てナイフを振るった。


 ギリギリで反応して回避したが、再び彼女は消える。


 「ねぇ! 思ったんだけどさ。神器を狙ってるんだよね? なのに殺す必要ってあるのかな?」


 当然返事なんて返って来ない。寂しいな。


 「どこからどう見ても、神器なんて持ってないと思うんだけど、その辺はどう考えているの?」


 返って来たのは投げナイフ。ギリギリで指で挟んで捕まえる。


 お返しとして、多分今歩いている場所に向かって投擲した。


 回避したのか、姿を現した。


 「なぜ⋯⋯」


 「勘」


 もう良いか。


 今ここで争っていても意味は無いし、時間の無駄だ。


 俺は瞬時に彼女の背後に移動した。


 この空間壊れようとも、リアルの世界には影響がないのだろう。


 だけど怖いので、ある程度の手加減をして腹の部分を手で押す。


 その力だけで面白い様に彼女は吹き飛んだ。


 「は、発勁⋯⋯」


 「ただの力押しだよ」


 再び接近して、手加減を加えた攻撃をしていく。


 反応して回避してみせるが、その先にまた手を出せば良い。


 手加減した攻撃だからこそ、瞬時に次の攻撃に切り替える事ができた。


 「クソ」


 ハンドガンを取り出しやがった。まさかの銃だ。


 その弾丸が放たれるが⋯⋯集中していると投げナイフよりも遅い事に気づきた。


 投げナイフには何らかのスキルとかステータスの影響があったのだろう。


 ステッキを扇にさて弾いた。


 「くっ」


 何発も放たれるが、その度に弾く。


 「もう良いだろ。こんな茶番は終わりだ」


 ジャンプして、天井だと思われる位置に向かって拳を突き出した。


 バリィン、ガラスの割れる音のような爽快な音と共に、彼女が作り出したであろう空間は壊れた。


 さっき煙を晴らす時に突き出した衝撃波に違和感を感じたが、正解だったな。


 空間が破壊されると、前髪の隙間から見えた瞳が歪んで、狼狽している事に気づいた。


 「別に殺しとか、そんな物騒な事はしないからさ。帰って良いよ。神器は使ってないし持ってないから、もう勘違いで襲わないでね」


 「我々は正義のために、諦めない」


 「頼むから全力で諦めてくれ」


 彼女は走って消えた。

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