物理系魔法少女、戦況を一変させる天使が来た

 力を込めてステッキをぶん投げて、炎の鳥を破壊する。


 雨によって地盤が緩くなり、動きが少しだけ悪くなる⋯⋯なんて事は無かった。


 不思議だ。


 泥だと言うのに、足場にしているのは岩の上のように硬い。


 火の精霊が炎の魔法の力を下げて、水の精霊が魔法で炎を弱らせる。


 「セイレイ、セイレイセイレイセイレイ!」


 アオイさんが同じ言葉を繰り返し叫び、魔法を権限する。


 「気をつけろ!」


 「力がかなり練られている」


 火と水の精霊がそう言ってくれる。


 サイズに対して威力が大きいと言う事なのだろう。


 ステッキを手に戻しながら、全てを破壊する事を考える。


 「アカツキさん。少し飛ぶよ」


 脇の下から腕を通して、俺を抱き上げるミドリさん。


 「水よ!」


 水の魔法がアオイさんに迫り、幻術の水も向かって行く。


 それらが炎の魔法と相殺する。幻術の方は貫かれているけど。


 「行くよ!」


 ミドリさんが風を足から放出して、一気にアオイさんに向かって飛ぶ。


 めっちゃ速い。


 さらに、途中からでも風が後押しするように吹き荒れて加速する。


 「うちを投げーや!」


 「りょーかい」


 離されたので、腕を捕まえて回転し、遠心力を乗せてぶん投げた。


 空気抵抗を全く感じさせないミドリさんの速度は減速する事無く、アオイさんに辿り着いた。


 ゼロ距離で魔法陣が展開する。


 「テンペスト!」


 今まで以上の竜巻がアオイさんを包み込む。黒い風⋯⋯。


 凄まじい火力の竜巻の中、紫色に輝く炎が中心に見える。


 「あの魔法を耐えるのか?」


 あの魔法を防ぐのに相当の魔力を使ってくれるはずだ。


 それで少しでも弱くなってくれたら良いのだが、そんな様子は見られなかった。


 魔法が終わるのと同時に、ミドリさんは俺の隣に移動する。


 「はぁはぁ。あの魔法は魔力的に一日五回しか使えへん」


 「大丈夫ですか?」


 「その五回全部撃ってぇも、魔力を枯渇まで追い込めん!」


 その言葉を聞いて、戦慄する。


 アオイさんの魔力量を俺は軽視していたのかもしれない。


 魔力評価Sだとしても、そこまでの力があるのか?


 詳しく評価の基準とか知らないけど、Sって相当凄いのでは?


 だったら今の俺の筋力は⋯⋯。


 「だけどなぁ」


 あんまり女の子を攻撃したくないってのが本音。


 本気で殴ったらどうなるのか想像できない。


 もしもアオイさんの実力を正確に把握して判断できるのなら、完璧な力加減ができるのかもしれない。


 だけどそれは俺にはできない。


 「結局、攻撃魔法を砕く事くらいか。俺にできる事は」


 そう判断して、再び魔法を展開し始またアオイさんを見る。


 魔力は減っているのか分からない。魔法の数も威力も徐々に上がっている気がする。


 怒りをエネルギーに⋯⋯。


 「なんだ?」


 「なぜ見る?」


 「どうしたのじゃ?」


 精霊に拒否された事に僅かでも怒りを覚えており、そこを怒りの悪魔に狙われた。


 増幅した怒りはエネルギー、つまりは魔力に変換される。


 その暴走した根源にある精霊への想いが、本人達を目の前にしてさらに燃え上がった。


 その可能性はないか?


 怒りが増せば増すほどに強くなる⋯⋯なんて厄介な。


 でもテンプレだよな。


 怒りでパワーアップ、理性が吹っ飛び暴れる化身となる。


 「だあ! まじでどうしたら良いんだよ!」


 アンサー求む!


 「てか、精霊達は悪魔から解放される方法は知らないの!」


 「ふむ。我々のおった世界とは違うからの。分からんの」


 「ただ昔だと」


 「浄化か己が心に打ち勝つ」


 浄化魔法を使える人なんて、この場にはいない。


 「どうしたらええんや」


 結局はアオイさんが自分の力で出て来る必要があるのだけど、今はずっと「セイレイ」と言っている。


 魔法が降り注いだので、皆で対処していると虚空からいきなり白い誰かが現れた。


 刹那、魔法が止まりミドリさんは頭を垂れる。


 精霊達から殺気が出る。


 「なぜ天使がこの森に入って来る!」


 「出てけ、ゴミがっ!」


 火と水の精霊が森の事を気にせず魔法を放つが、結界によって阻まれて、光の魔法で吹き飛ばされる。


 「貴様っ!」


 幻の精霊も殺意のままに魔法を行使するが、それよりも早くなぎ倒されて吹き飛ぶ。


 一体なにが?


 僅か数秒で精霊達がどこかに消えてしまった。


 「何をしている?」


 「ミカエル様。申し訳ございません。お力を⋯⋯」


 「早く処分しろ」


 その言葉が時間を止めたかと錯覚させた。


 淡々と、一号さん達よりも感情と言うのを感じない声音。


 機械よりも生物感はある声なはずなのに、機械のように生物感を感じない。


 「お待ちください。彼女は同じ魔法少女なのです! 悪魔から解放すれば、まだ一緒に⋯⋯」


 「必要ない」


 「え?」


 ミカエルと呼ばれたそいつは天使らしい。


 「我々は個ではなく軍だ。錆びた歯車は取り替える。簡単な論理だ」


 「お、お待ちください」


 「お前も、不良品か?」


 は?


 なんだコイツ。一発くらいは殴りたくなる。まるで人を物のように言いやがって。


 だけど、コイツの前だとなぜか身体が動かない。


 思考だけが巡る。


 「悪魔に支配された魔法少女、それはもう魔女だ。敵だ。不穏分子だ。世界の為に数刻でも早く処分する。なぜそうしない」


 「うちは、アオイ、ちゃんの、友達、やから」


 「友情か。そんな理由で我々との契約を反故にするつもりか?」


 怒りも何も無い言葉に気が狂いそうになる。

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