物理系魔法少女、話を聞きに行く

 「前にスーパーで会った人だよね? なんでメイド服?」


 「そうだね。たまたまダンジョンで会ってさ」


 俺がそう言うと、彼女は疑問符を頭に浮かべた。


 「星夜さん、ダンジョンだと女の子になりますよね? どうして気づいたんですか?」


 「匂いらしいよ」


 「そんな。匂いで人の判別できるって凄いですね」


 その言葉を俺は紗奈ちゃんにそっくりそのままお返ししたい気分になった。


 紗奈ちゃんが終わるのを待ちながら、渡されたメモの場所にどうやって行くかを考える。


 言い訳してもバレる気がしなくもないが、なるべく一人で行きたいとは思っている。


 「はわぁ」


 おっとあくびが。


 そう言えば、普通の状態は睡眠をしてないからかなり疲れが溜まってるんだよな。


 おや? これはちょうど良いのでは?


 さすがに眠らずに次に行く訳にはいかないので、全力で睡眠したい。


 そう言えば彼女は許してくれるはずだ。


 俺は家に残れて、紗奈ちゃんは仕事に行くので⋯⋯。


 「⋯⋯それはなんか、ダメだな」


 浮気するための口実のように聞こえてしまうので、なんかヤダ。


 素直に打ち明けるか。


 「終わったよ。帰ろ」


 「うん。帰ろっか」


 俺と紗奈ちゃんは家に向かって帰る。


 「あのさ。明日⋯⋯ちょっと出かけたいんだけど大丈夫かな?」


 「えー。一緒にギルド行かないの?」


 「うん。ちょっと約束事ができちゃって。さっきの人達となんだけど⋯⋯」


 別に約束している訳では無いが、概ね間違いでは無いだろう。


 正直に打ち明けて、目的をはぐらかせば問題ない⋯⋯と思う。


 それに今回の紗奈ちゃんは怒ってないので、多分問題ないだろう。


 あの一号さんやロリっ子さんだから問題なかったのだろう。


 「ふーん。私と一緒に仕事行くよりも大切な事?」


 顔を覗き込むように言ってくる。


 そんなの決まってる。


 「それと比べたら天と地の差だな」


 「じゃあなんで行くのよ」


 「ちょっとした疑問の解消をね」


 「そっか。まぁ私も星夜さんのプライベートを縛るつもりは無いから安心して良いよ⋯⋯ただ、もしも良からなぬ事したら」


 「そこは大丈夫だから安心してくれ。本当に。マジで。命どころか魂賭けるから」


 翌日、しっかり寝た俺は紗奈ちゃんと時間をズラして家を出て、メモ書きされた住所に向かって足を運ぶ。


 そこは、普通の戸建てだった。インターホンを押す。


 「うむ。来よったな!」


 「話聞きに来ました」


 「良かろう! 入れ」


 ドアを一号さんが開けてくれて、中に入る。


 そのまま案内されて地下へと降りる。


 「おお」


 そこには様々な書物が置いてあった。日本語の本が一冊も見当たらん。


 沢山ある本の一冊を傾けると、ギミックが起動したのか本棚が横にスライドして道を開ける。


 「おお」


 何その仕掛け最高かよ。


 案内してもらいながら奥に行くと、大量の武具が乱雑に置かれている場所にやって来た。


 その下には巨大な魔法陣が描かれている。


 「これらは全て神器、ここにて封印をしておるのだ」


 「結構あるんですね」


 「世界中から集めておるぞ。さっさと封印ではなく破壊したいのだが⋯⋯未だに破壊の方法が分かっておらぬのだ」


 一号さんがテキパキと机と椅子を用意してくれたので、お礼を言ってから座る。


 木製の椅子だと言うのに、座り心地は高級ソファーだ。


 「それじゃまず、身の上話をせねば分からぬかな。余は魔王だ」


 魔物の王⋯⋯まじかぁ。


 最近、勇者を名乗る人と出会ったばっかりなのに魔王にまで会うなんて。


 「ちなみにフルネームは佐藤さとう魔王ルシファーぞ」


 「そうですか」


 「ちなみに魔王と言うスキルを得ているだけで、それ以外の情報とか力とか、ぶっちゃけよく分かっておらん」


 「勇者とかとは戦わないと?」


 俺が良くある展開を想定しながら質問すると、彼女は軽口で言う。


 「勇者っているの?」


 それは本音だったろう。彼女は自分のスキルに【魔王】があるのに、勇者はいないと思っていたのか。


 まぁ今回の話には関係なさそうなので無視しておく。


 「先日話した通り、神器は神が創った武具。主に武器が多いの」


 「ふむふむ」


 「それで神器はとてつもなく強い性能をしておる⋯⋯例えば神器を持ったレベル1がレベル3に余裕で勝てるくらいの戦力増強は見込める」


 分かりにくい例えを持って来たな。


 とりあえず、かなりの強さだってのは分かった。


 「ただ、使うと八割で死ぬ、一割で神器に呑まれる、最後の一割で適応するが寿命が極端に短くなる」


 俺はそれを聞いて、頭が真っ白になった。


 この人が言うなら俺は神器を持っていて、あの本気の攻撃を出す度に出る光かま証拠なのだろう。


 だとしたら数回使っている。死んでないし、呑まれている様子は無い。


 つまり、適応して極端に寿命が減っている⋯⋯。


 「神器は意思があってな。神器が己から選んだ主なら、デメリットは何もなかろう。ともあれ、昨日も言ったがお前にデメリットはないぞ」


 俺は意図して使ってない、つまりは神器に選ばれた可能性が高い。


 ほっと旨を撫で下ろす。


 「そんでそんな強力な神器の情報をどこからか聞きつけて、悪用しようとする輩がいての。父親の遺言に従って、回収しているぞ」


 重くなりそうな話が始まろうとしている事に俺はすぐに気づいた。


 暖かな紅茶も用意してもらったし。聞こう!

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