物理系魔法少女、誰もがビビる酔っ払い

 紗奈ちゃんの晩御飯を四人で食べ終え、ツマミを手作りする紗奈ちゃん。


 俺はその横で人数分のコップを用意する。秘書さんも目ざとく発見されて、四人分である。


 「やってみるかな」


 俺はダイアモンドカットされた氷を思い浮かべて魔法を使ってみると、しっかりとできあがる。


 それをコップに入れて、均等になるように注いで行く。


 「星夜さん!」


 「ん?」


 「魔法、使えるんですか? どうして! 魔力の評価なんて見えた時は世界新記録ですよ!」


 「嬉しくない新記録だね。うん。なんかダンジョンの外だと使えるんだよね」


 アカツキが俺と同一人物だとは認めたが、【魔法少女】のスキルについては言ってない。なんか察してそうだけど。


 普段は使う機会がないので、俺が魔法を使える事に驚いている。


 「すまない。共有しようと思っていたのだが、中々言うタイミングがなくてな」


 「普通に言ってくれても良かったのに知っているなら⋯⋯」


 「すまんすまん」


 チーズをベーコンで包んで揚げたツマミと共に、オーガの里で手に入れた酒を乾杯して飲む。


 サッパリとした喉越しでとても飲みやすかった。ちょっと甘みがある。


 日本酒に近い味わいと言うかなんと言うか、とても刺身が食べたくなるな。


 最初のレベルアップの時に紗奈ちゃんと二人で飲んでいた時を思い出した。


 「結構キツイな」


 「そうですか?」


 キツイと良いながらもユリアさんは普通に飲んでいるし、酔っ払った様子はない。


 「アルコールは途中で死ぬからな。少ししか感じないさ」


 「悲しいですね」


 「毒物が体内に侵入しない体質なのだよ。薬も通さないから厄介なんだけどね」


 ツマミをパクパクと食べて、既に二杯目に入った秘書さんには少しだけ遠慮の気持ちを持って欲しい。


 ツマミを一つ食べる。


 うん。これは手が止まらなくなるは。


 「あれ? 紗奈ちゃん大丈夫?」


 ずっと隣に座っている紗奈ちゃんが言葉を出してない事に気づき、俺は言葉をかける。


 彼女の顔はとても赤らんでおり、目はトロトロだ。


 コップの中身を見た感じ、一口しか飲んでない。


 「ユリアさんは体内の毒物を死なせるのに、紗奈ちゃんは凍らないの?」


 「意識したらできるだろうけど、その場合酒の味も分からなくなるかな」


 何が起こるのか、緊張の時間を待っている。


 ゆっくりと、歪んだ紗奈ちゃんの口から言葉が出る。


 「せいやしゃん。若返りました?」


 「全く」


 「えへぇ。しょうがくしぇいでしゅか? ちっちゃいでしゅね〜」


 「ストップ紗奈ちゃん! 君には何が見えているんだ! 君は俺の小学生時代を知らないはずだ!」


 おもむろに立ち上がり、部屋の中が冷気に包まれる。この程度なら大丈夫だ。


 次に人型の人形が二人できる。


 「お義父さん、お義母さん、よろしくお願いしましゅ!」


 「おや? 結婚報告の練習かな?」


 「ユリアさん呑気ですね」


 次々と赤ちゃんやら中学生やらの俺の氷像ができあがる。


 全員同じ見た目とサイズなのでちょっとした恐怖が芽生えて来る。


 冷気の温度も徐々に下がって来て、寒さを感じる。酒が凍る。


 「私の酒が」


 「アナタはもう四杯飲んだから止めてください。てか、そろそろ止めてくださいよ」


 「まだ大丈夫でしょ!」


 秘書さんが楽観的な事を言い始めた。


 そしてもう一体の氷像ができる。


 「今度は何かな?」


 「ユリアさんも楽しまないでくださいよ」


 「ちょうど良いかなって?」


 酒のツマミにしてやがる。氷だけを死なせているのか。


 「星夜さん。その女誰? なんで、私以外の女と親しくしてるんですか!」


 「「ッ!」」


 秘書さんのユリアさんの顔が引き締まった。


 酔っているのにさっきとは違ってハキハキした喋り口調の紗奈ちゃん。


 その背後に現れる般若から絶対零度の冷風が吹き荒れる。


 「やばい! 妄想で嫌な事を思い浮かべてマジギレしてる!」


 「これは⋯⋯笑ってられないね」


 ユリアさんが手から黒い霧を出す。それが氷を死なせて行く。


 秘書さんが紗奈ちゃんの背後に移動して拘束する。


 「離せ! あの女を! 許さない! 地獄に堕ちても追いかけてやる!」


 「落ち着いて! あれは自分で作った氷像でしょ!」


 絶対にないと言い切れるけど、もしもあんな未来が来たとしたら、俺はどうしたら良いのだろうか?


 何もできず、秘書さんとユリアさんの必死の形相で紗奈ちゃんを止めるのをただ、呆然と眺めていた。


 「って、俺にもできる事が⋯⋯」


 ダメだ。水も温水もすぐに凍る。


 段々と腕の自由が利かなくなって来た。魔法の炎もすぐに凍るし。


 幻術の状態でも凍る異常事態。


 「くっ。こうなったら!」


 秘書さんが紗奈ちゃんを持ち上げて、俺に向かって放り投げた。


 倒す訳には絶対にいかないので、全力で支える。


 紗奈ちゃんをキャッチした瞬間、全身を包み込む冷気に俺は完全に凍った。


 人の温もりも身体の感触も全て、感じない。ただあるのは心の芯まで冷える氷だった。


 本人は満足そうだけど。寝てしまった。


 「やれやれ」


 氷を死なせてもらい、なんとか俺は脱出した。


 「し、死ぬかと思った」


 「死んだら友に頼んで蘇生してもらうよ」


 「死んで大丈夫とか俺、そんな考えは絶対にしないですからね」


 「はは。ははは」


 「冗談って言ってくださいよ」


 とりあえず紗奈ちゃんをどかしたいのだが、がっしり掴んで離さない。


 「チィ! イチャイチャしやがって! ペっ!」


 秘書さん、アナタがこの現状を生み出したんじゃないですか。


 「幸せそうに寝ているね」


 「そうですけど。それは良い事なんですけど、俺は風呂に行きたいです」


 「起きないからね。今日は諦めてくれ」


 「しかたない、ですね」


 俺は紗奈ちゃんをソファーまで運んで、このままにしておく事にした。


 秘書さんの魔法でリビングには暖かな空間が広がる。


 「それじゃ、おやすみ」


 「おやすみなさい」


 秘書さんは風呂に入ってから自室に入って寝た。ユリアさんはさっきの魔法で紗奈ちゃんの封印が死んだので座って寝るらしい。


 俺は寝れる状況じゃないので、朝まで起きるはめになった。


 この状況じゃ寝れん。

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