人気受付嬢、鬼よりは優しいが鬼より怖い
星夜さんが心配で早く帰りたいけど、私は仕事が休めない理由が今はある。
それが今、目の前で探索者と喧嘩して相手をフルボッコにした受付の新人だ。
スキルの影響とかではなく、生物的しかたない尻尾を揺らしている。
「で、遺言は?」
「おい待て、なぜ我を殺す前提で話をするのだ」
「約束したよね? 自由を約束する代わりに問題を起こさずに人間らしい生活をすると」
「待て、待ってくれ! だいたいあのバカが悪いのだ! 止めろと言っても何回も翼を触って来るからだ! 我は悪くない!」
子供かよ。
彼女⋯⋯いや見た目は女の子だけど中身はオスだから彼か。
彼は私の全力で死にかけた時、自由になりたかった、そう言って来たのだ。
知性が高いが故に、生まれた理由などを追い求めてしまった。それが可哀想に思ってしまった。
で、隠れて日本に持って来た。
我ながら何をやっているのやら。
「しかたない。今回は探索者の性的接触で反射的に手を払ったら相手が思いのほか弱くて吹き飛んでしまった、事にしておきますか」
「おお!」
「次からは気をつけてね」
「お主はああ言う輩にどうやって対象しているのだ?」
「笑顔よ」
「え」
受付の基本は笑顔だ。
作り笑いを基本浮かべて適当にあしらい、機械のように仕事をこなす。
「それでも迫って来るバカは他の探索者が対応してくれたからね。私はあんまり気にならない⋯⋯そうね。本気で嫌だったら、誰にもバレないように半殺しにすれば良いと思うよ」
「分かったのだ!」
ま、今回の出来事で彼にちょっかいを出す人は減るだろう。
レベル6をあんなにあっさり倒したらね、ここのギルドに居る人は誰も手を出せないよ。
「それじゃ、私は帰るから。しっかり支部長のところに行くのよ」
「あい!」
私は家に向かって帰る。星夜さんのステータスを思い出しながら。
「レベル4でエラー⋯⋯」
エラーの評価は本人にしか見えないし、それが正しいとも限らない。
全く、星夜さんの身に何が起こっているのよ。がしゃどくろの件もそうだし。
嫌だな。こんな争いに巻き込まれているのなら。
「今宵は一人か?」
「音羽さんから聞いてるよ。銀光の魔法少女なんだっけ?」
「へっ。ナンバーツーの氷の使徒、てめぇを倒せば生の使徒がさすがに出て来るよなぁ!」
もしも私に勝てるのなら、逃がすわよ。
さすがにヤバいってね。
でもさ、そもそもアナタ自体がこの私を倒せないのだから意味が無い。
「これが最速ね」
顔を完全に覚えられてしまったのは厄介だな。今まで姿を隠して来たのに。
でもギルドが使徒の巣窟だとは気づかれてないのか。
バレてしまったのはしかたない。
「私は早く帰りたいの。邪魔しないで」
私は今日の晩御飯用に調達した食材の中からネギを取り出して、振るった。
「ほう。この俺の攻撃を受け止めるか」
「刺身包丁?」
「そうだよ!」
速い斬撃が私を襲うけど、上には上がいるから全て防ぐ。
「これならどうだ」
光の魔法か⋯⋯ネギで弾く。
「なんだそのネギ⋯⋯見た目を誤魔化した剣か?」
「いや、ただ凍らせたネギよ」
帰ったらユリアさんに氷を死なせてもらおう。じゃあないと使えない。
「ネギで俺の攻撃が、止められるかよ!」
複数の魔法が弾丸のように襲って来る。少し集中して弾く。
刹那、背後に回っていた彼女が刺身包丁に光を纏わせて振るう。
建物を切りそうだ。
「しかたない」
私は反対の手でそれを受け止め、凍らせて砕こうとするが脱出される。
少し考えてから行動したので、しっかり氷での防御はしているので切れてはない。
「なんども俺のスピードについて来れるとは⋯⋯中々やるな!」
「君が遅いだけでしょ。それで光の速さとでも言いたいの?」
「ああん? 言ったなてめぇ。その綺麗な足、一生使い物にならなくなっても、知らねぇからな」
「あら怖い」
彼女が義眼を外した。
彼女の事情は彼女が音羽さんに語った。それを私達は聞いた。
知らない魔法少女が居る事に皆で驚いた。
あまり手荒なマネはしたくないな。私は大人だし。
だから使徒ってバレたくなかった。どこから情報が漏れたのやら。
「閃光速」
「⋯⋯」
光となって彼女は私の足を切り裂こうと動く⋯⋯なので斬撃を足の裏で止めた。
「何っ!」
「それが全速力なの?」
「な、舐めるなよっ!」
バックステップで距離を取られる。
舐めるも何も、力の差は歴然な気がするんですが?
「さっさと帰りなさいな。天使の下なんかに収まらないでさ、人生を楽しもうよ。殺しとかさ、嫌じゃない? そんな終わらない負の連鎖なんて、退屈だよ?」
「⋯⋯お前に何が分かる。全てを貶され壊された俺の気持ちが、お前に分かるか!」
それを言われたら何も言い返せない。私は恵まれた環境で育ってるし。
何よりも、私は彼女じゃないから。
「俺は天使様のためになんだってやる! てめぇもあのおっさんを殺されたら、少しは分かるかもなぁ!」
「は?」
「あのヒゲモサモサのおっさんだよ! 仲良さそうだったからな! 父親か? 家族が殺される気持ちを味わってみるか!」
落ち着け私。
「星夜さんは関係ないでしょ」
「
「ふーんそう。そんなザルな調査で終わったんだ。ふーんそっかー関係者なんだ、手を出すんだ」
怒ったわ。私の前で良くもそんな事を口にできたモノだ。
私の姿が少し変わる。髪色とか瞳の色とか。
「⋯⋯ッ!」
「ふーん。そっかーそっかー。へー」
私はワンステップで肉薄し、ネギで刺身包丁を砕いた。
「へ?」
彼女もレベルは高いのだろう。音羽さんを追い詰めたんだから。
光として逃げようとするが、そんなただ少し速いプラス眩しいだけの彼女を逃がす訳が無い。
首を捕まえる。
「⋯⋯はは。ここまで力の差があるのか。俺は死んでも構わねぇ。てめぇらを狙う奴は⋯⋯」
本気だ。彼女は死を恐れてない。
「殺さないよ。私は君を殺さない⋯⋯だけどね」
声を封じて、私は耳元に口を近づける。
「全ての身体の機能を停止させる⋯⋯安心して、生きているし意識もある。意識が途切れる事は無い。そして絶対に死なせない」
意味が分かるかな?
「君は永遠の時を暗闇の中で孤独に過ごすんだ。外で何が起こっているのか全く分からない。生きているのに一生、天使の役には立たない」
彼女の目が見開いた。
彼女にとっては天使の役に立つのが最も重要な事なのだろう。意味不明だが。
だったらそれを奪ってやれば良い。
「天使はガッカリするだろうなぁ。せっかく力を与えたのにこんなところで使用不能になるんだから。使徒を誰一人、感情の悪魔を誰一人、何も成し遂げられない無能のまま永遠の時で反省すると良い」
彼女の中に渦巻く感情はどうなのだろうか?
私は彼女じゃないので分からない、ただ一言だけ言える事がある。口にはしないけど。
私はそこまで残虐非道の鬼ではない。
◆
「まあ、せやね」
「ん?」
なんか声がした気がしたけど、気のせいか。私は一旦ギルドに戻ってから家に帰る。
【あとがき】
星が、なんと、400を超えました!ありがとうございます!すごく嬉しいです!!
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