物理系魔法少女、体力の限界が来た

 俺のステッキは使いやすくも使いにくい。


 剣にした場合は斬る事はできずに殴る結果に終わる。剣の形をしているのに、バットを使っている感覚になるのだ。


 どんな形でも鈍器になる、だがこのステッキにはそれ以外の攻撃方法が存在する。


 それが突。


 槍などの先端が尖ったモノで貫こうとすれば、しっかり貫けるのだ。


 ナイフで切り裂いてコアを少しだけ露出させる事に成功させた。そこを貫く。


 俺の右手に来たステッキが槍の姿になる。


 「動けっ!」


 魔法が放たれたと同時に俺の右手は動いて、その力だけで回転する。


 魔法を薙ぎ払い、回転した勢いを利用して、最後の一撃を放った。


 再生を始める骨。


 「届け」


 俺はスケルトンナイトがうじゃうじゃと蔓延る地面に落ちて行く。


 「⋯⋯行けっ!」


 あと少し⋯⋯魔法陣が現れて槍の動きを止めようとする。


 だけどそんな咄嗟な対応では槍は止まらない。


 少しだけ再生され、薄い骨に守られたコアに直撃する。


 パキパキと音を立てて守りを砕き、本体に命中する。


 ゆっくりと亀裂を広げ、ステッキの槍はコアを貫いた。


 「⋯⋯勝ったぞ」


 受け身なんてのは取れずに俺は地面に落ちた。骨の下敷きがあるからか、少しだけ衝撃は和らいだ。


 スケルトンナイトが動きを止めて消滅して行く。同時に俺に安心感を与える。


 がしゃどくろの身体が頭から崩れ落ちる。最期にがしゃどくろと目が合った気がした。


 哀れみ⋯⋯そのような感情を感じた。


 崩れ落ちた後に俺の横に落ちて来たのは、がしゃどくろのドロップアイテムだろう骨とガントレット、魔石だ。


 それが勝利の高予感を与えてくれるが、疲労とダメージですぐに失せた。


 「いて」


 ステッキが顔面に落ちて来た。


 意識が朦朧としている。


 自分で言うのもなんだが、良く勝てたモンだ。


 身体の節々が痛い。


 「⋯⋯」


 声が出せない。夢かもしれない。


 ガントレットがゆっくりとぷかぷか浮いているのだ。そうだ。これは俺の意識が混濁しているからだ。


 あーなんか来る。来るぞ〜。


 うぅ、もうさすがに残業確定だよなぁ。紗奈ちゃん怒るかな〜。


 でもレベルアップしている可能性あるよな? それだったら許してくれるかな?


 怖いから来んな。怪しいんだよ。


 違う、これは幻覚幻覚。


 「⋯⋯」


 ガントレットが自ら手にハマって来る。


 感触? それはもうしっかりとある。


 でもきっと意識が混濁しているせいで、そんな幻覚が見えているに違いない。


 俺、死にかけているのかな?


 確かに、血の海が俺の血ででき始めているけども⋯⋯普通に死にかけてるな。


 再生のスキルが頑張ってくれてると信じよう。


 おや?


 ガントレットが消えた。やっぱり幻覚か。


 「あと少し、動けるな」


 ドロップアイテムを必死にかけ集めて、俺はゲートに向かった。


 遠回りしてしまったのか、ゲートの方から沢山の人が入って来るのが見える。


 人が入って来ないのを見計らい、俺はゲートを通る。


 「うわっ」


 荷物が重くて、俺は倒れた。


 「おっと、大丈夫か?」


 「⋯⋯たなかくん?」


 「なぜ名前を! それよりも身体がすごく悪そうだ。今回復魔法を⋯⋯」


 田中君が俺を支えて魔法まで使おうとしたタイミングで、紗奈ちゃんが俺の身体を奪い取った。


 「星夜さん! 大丈夫ですか!」


 「あ、えと」


 「裏で寝かしますね。行きますよ」


 フル無視された田中君が、ご主人が出かけるのを見送る子犬に見えた。


 あ、ダメだ。もう意識が保てない。


 俺は意識をシャットダウンしてしまった。


 それから何時間経過したのだろうか、俺はソファーの上で目が覚めた。


 家の天井だ。


 「いつの間にソファー⋯⋯秘書さんが持って来たんだった」


 「おや? 起きたのか」


 「ユリアさん。はい今」


 頭がひんやりしてズキズキする。


 「これは紗奈ちゃんに膝枕してもらっていたな」


 「良く分かったね。帰ってから仕事に行くまで、ずっと膝枕してたよ」


 「それで心配と不安で冷気が少々出て、俺の身体が永久冬眠しそうになった、と」


 「今の紗奈は前よりも制御ができるようになってるよ」


 なるほど、冬眠までは行かなかった、と。


 ユリアさんが持って来てくれた食事をありがたく食べながら、時間を確認する。


 既に午後三時だ。


 「めっちゃ寝てたな」


 「ああ。怪我とかは無かったのだが、目覚めなかったね」


 「そうですか。かなりダメージを受けましたからね」


 そうか。


 まぁ怪我自体は治っているだろうし、目覚めなかったのは体力切れか。


 魔法少女の状態で限界まで動いんだ。俺に反動が来てもおかしくは無い。


 これからは注意だな。体力の使いすぎはこっちにも影響が出る。


 「ギルドに行くと良い。報酬が手に入るはずだ。先に言っておくよ、おめでとう」


 「ん? ありがとうございます?」


 俺はギルドに向かって歩こうとしたが、ぶっ倒れた。


 「おや? まだ本調子じゃなさそうだね」


 「そのようですね。申し訳ございませんが、お手をお貸しできませんか?」


 「ああ問題ないさ。そのために居るのだから」


 肩を貸してもらい、ソファーに座らされた。


 「昨晩は大変だった、君の身体を紗奈が洗おうとしてな。どうなるか目に見えているから必死に止めんたんだ。さすがにそこまで制御はできないからね」


 「まじで冬眠は避けられたようですね」


 「ああ。君の身体の汚れとかは死なせる事ができたから、清潔感は保証するよ」


 なるほど、排泄したいと考える事が無いのも、中の物質を死なせたのか。え、すご。


 「退屈だし、動画を見ないか?」


 「そうですね」


 スマホの電源が切れていたので、充電をした。

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