人気受付嬢、アメリカ出張その3
彼女の転移でドラゴンの目の前に移動した。
刹那、相手も気づいて魔力が迸る。
「ブレスか」
「大丈夫」
吐き出される黒炎のブレスを私は凍らせた。
空間が弾けたように氷は砕ける。
「フー」
息を吐くだけで大地が凍る。身体の芯が冷える。
私が寒いと感じる。
これが私の全力だ。
「ゴガアアアアアアアアア!」
「紗奈!」
刀を受け取る。
これを使うのも久しい。
妖刀、氷龍。
「
周囲を氷の世界に変える。ドラゴンから発せられる熱が溶かしていく。
「紗奈の氷を溶かすの!」
彼女も驚きながら、自分の愛剣を2本抜いている。
まずは左足だ。
肉薄すると、踏みつけの攻撃が来る。
「やっぱり図体がでかいと小回りが利かないか」
地面に氷龍を突き刺し、氷で踏みつけを防ぐ⋯⋯だが、体重で簡単に砕かれる。
「過信はできないね〜」
「そうだね。こんな化け物は初めてだ」
転移で脱出させてもらった。
斬ると言ったものの、とても鱗が硬そうだ。
それでもやるしかないのだけど。日本には絶対に来させない。
「タイミングを合わせて」
氷龍に魔力を込める。
「はあああ!」
「亜空切断!」
同時に足に攻撃をした⋯⋯しかし、奴の鱗にかすり傷を与えただけで終わってしまう。
それでも相手に取っては予想外なのか、けたたましい咆哮が響く。
「ブレスが来るぞ!」
「凍らせれそうだけど、怖いから回避する!」
強く地面を蹴って跳躍し、地面を焼き野原にするブレスを回避した。
回避した方向に向かって、ブレスが伸びる。
「ふんっ!」
ブレスを切断し切断面から凍る。
相手の身体に降り立つ。私の足から焼けるような音と共に水蒸気がもくもくと出て来る。
「凄い熱だな」
身体に突き刺してみるけど、やっぱりビクともしない。
「ん〜魔力を身体中に溜め出したよ?」
「助けて〜」
転移で助けてもらう。
ドラゴンを中心に黒い爆発が広がった。
なんて破壊力だ。マグマが噴水のように地中から出て来る。
「で、本気はいつ出すの?」
「まだ身体が冷え切ってない」
「そっか。じゃあ、私が先に全力を出そうかな!
時間が止まり、彼女が魔法を駆使した斬撃を一点に浴びせる。
そして時間は動き出す。
「コガアアアア!」
時間停止の時に様々な攻撃を繰り出し、動き出すと同時にその攻撃は同時に発動する。攻撃の圧縮と彼女は呼んでいる。
足にそこそこのダメージを与え、皮膚を露出させた。
「うん。良い感じ。全力なら通じそうだ」
「やっぱり強いね、時空魔法は」
「まぁね。停止中に全力で攻撃をして、圧縮させたけど⋯⋯それでも骨までは行かなかった」
どうしてここのダンジョンでこんな化け物が生まれたか分からない。
それでもやる事には関係ない。
「やっぱ紗奈の本気も出して貰うよ。
急速に身体の冷えが加速する。
冷気が身体中から放出される。私一人で抑えられる魔力じゃないのだ。
ブレスが向けられる。
「待って⋯⋯まだ制御が」
「転移⋯⋯ダメだ魔法が凍らされた! タイミングをミスった!」
いや、相手がいきなりスピードを上げて来たんだ。
さっきまでよりも素早い動きでこちらを向いている。
「神威!」
男の声が聞こえ、ドラゴンの頭に強撃が入る。
「ジャパニーズ達に任せてられるかってんだ!」
「ここは我々の国よ!」
魔法や物理など、様々な攻撃がドラゴンを襲う。おかげでブレスは飛んで来なかった。
複数の力を合わせた結果、額の鱗にヒビが入る。
「落ち着いた。それじゃ、ちょっとやりますか」
刀を納刀する。
強く力を溜め、抜刀する。
「
刀に冷気の魔力を圧縮して斬る、だけの技。
そこまで高度な技術でもなければ、珍しい技でもない。
武器に魔力を流す初歩的な技術である。
しかし、私のような魔力お化けが全力で溜めた魔力を一気に解放した時の爆発力は⋯⋯時にダンジョンですら斬った。
軽く刃が入れば、そこから一気に凍る。凍った氷は刀が通った後の衝撃で砕ける。
私の冷気は連鎖を繰り返し、奥へ奥へと凍らせては砕いて行く。
そしてできるのは、片足の切断だ。
一本足を無くしただけで支えられなくなった体重だった。
無くなった足の方に倒れる。
「なんて強さだ。この俺が出せる最大火力を超える⋯⋯本当に同レベルか?」
「日本にはまだ、これくらいの猛者が居るって言うの?」
「戦慄しているところ悪いけど、まだ終わってないからね!」
友の言った通りだ。
魔力が中心に集まっていくのを感じる。攻撃じゃない。
なんだ?
「なんじゃこりゃ?」
「脱皮⋯⋯にしては異質だね」
「早く帰りたいのに!」
中心がぱっくりと割れて、中から出て来たのは⋯⋯二足歩行のドラゴンだった。
人間のような体付きにより軽くなったのか、空を飛んでいる。
「我はここに今、生まれた」
天に向かって拳を掲げた。
刹那、一瞬で大剣の男に近づいて腹を貫いた。
「ごふっ」
「ほう。急所を外したか⋯⋯それでも致命傷じゃないか?」
手を抜いて、捨てる。
他の人達が攻撃を始めるが、全てが避けられる。
「これが人間か、中々に強いな」
「まだ息がある! 皆さんは急いで逃げてください!」
「おいてけるか!」
「人型なら、むしろ得意分野です」
転移で彼らを逃がしてもらう。一人でも死なせない。
ここからは、私と彼女だけで十分だ。
いや、むしろその方が良い。
小型相手なら少数精鋭の方が動きやすい。彼らが弱いのではなく、純粋に連携ができない。
正確な実力を把握している訳でもない。探索者は手の内をあまり明かさないから。
さっきは助かった。だから今度はこっちが助ける。
早く倒さないと帰れないし、それに大天使が来る可能性がある。
「化け物の皮が剥がれたと思ったら、さらなる化け物が生まれた件について、どう思いますか?」
彼女がそんなくだらない事を問うて来る。
「そうだね。小型だから私達二人で相手するけど、勝てそう?」
「質問で返すなよ。この世は二択だろ?」
「そうね。やるか」
「やらないか!」
「「やってやる!」」
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