人気受付嬢、アメリカ出張その2

 「俺をここまで侮辱するとは⋯⋯アメリカで最速レベル9に到達したこの俺に!」


 「わーすごい」


 模擬戦ができるだけの空間を用意された。


 スキルを使っての身体強化を施して、大剣が真っ赤に輝く。


 そして私に近づいて、大剣を振り下ろす。


 レベル9としての実力は確かにあるだろう。忌まわしき、星夜さんを襲ったエージェントよりかは断然強い。


 私も七割の力を出さないと、手のひらでは受け止めれないだろう。


 しかしそんな力は出さない。殺し合いでは無い。


 言うなれば、そう。


 親睦を深める為の模擬戦だ。


 ⋯⋯私達の力をお披露目するには、やりすぎた煽りだったかもしれない。


 これは本部長の作戦だ。


 私達の力を見せつけて、主導権を手に入れ、ドロップアイテムをより多く回収する。


 噛ませ犬にしてしまうのは申し訳ないが、私もドロップアイテムは欲しいのだ。


 「だから、半分の力で御相手しよう」


 決して舐めてはない。相手強いし。


 これは私なりの敬意だ。銀髪碧眼に変わる。


 「これが私なりの敬意です」


 氷で刀を生成する。


 相手の攻撃に合わせて、振り上げる。


 「俺の筋力はA! 純粋な力比べで勝てると思うな!」


 確かに高い⋯⋯さらにスキルで底上げしているだろう。


 しかし、今の私なら取るに足らない。


 使徒としての力を解放しているのだから。


 「はっ!」


 相手の大剣を弾いた。


 「嘘だろ!」

 「あいつの剣を弾いたのか!」

 「レベル8のドラゴンですら斬り裂いたってのに」


 相手も熟練者、弾かれた瞬間に体勢を直して次の一手を仕掛けて来る。


 だけど遅い。


 既に私は彼に触れていた。


 「少しは力を認めてくださいね」


 私は相手を凍らせた。


 外見的な変化は無い。


 地面は少しだけ凍っているが。


 「⋯⋯う、動けない」


 剣を離してしまう。握れないのだろう。


 足も全く動かせない。だけど倒れない。


 「何をした?」


 「運動神経の『機能』を凍らせました」


 「は?」


 「ですから、運動神経の機能を凍らせました」


 「何を、言っているんだ?」


 魔法への耐性が高かったり、装備がガッシリしていると上手くできないのだが⋯⋯成功した。


 力だけで成り上がってしまったのだろう。打たれ弱い。


 耐性スキルの無い私が言うのもなんだが⋯⋯。


 「降参してください。そしたら解除します」


 「誰が⋯⋯するか」


 「私は概念を凍らせた。魔法に精通してない限り、解除はできない。アナタのような戦士タイプには最悪の敵ですね、私」


 もしも分からないなら、数発叩こうかな?


 しかし、その前に敗北を認めてくれた。


 日本人の実力は分かってくれただろう。


 「殺し合いだったら⋯⋯俺はお前を殺せている。勘違いするなよ」


 「はい!」


 言わないでおこう。


 殺し合いだったら⋯⋯私は二秒でアナタを殺せていたと。


 それを分かっている彼女は笑いを堪えている。


 準備は整い、青龍の上に乗って移動を開始した。


 飛行機よりも速い青龍ではすぐに海に到着し、海中まで一気に行く。


 潜水準備をしてないようだったので、青龍の周りを氷で覆った。


 これで水は入って来ない。酸素問題は彼女に任せれば、そのように空間を調節してくれる。


 ダンジョンに来た。


 「祠だね」


 「そうだね。⋯⋯入口はあそこか」


 ダンジョンとは不思議だ。外と中では全然違う。


 見た目よりも中身は圧倒的に広いのだ。


 入った場所に広がっていたのは、火山地帯のような場所だった。


 「⋯⋯ッ!」


 「紗奈よ、感じるな?」


 青龍が囁く。


 「ええ。これは確かに⋯⋯強いね」


 レベル9の人達も全員感じ取ったのだろう。この威圧感を。


 青龍でその場所まで移動する。


 確かに、出口に向かって歩いているドラゴンを発見した。


 「デカすぎる」


 「だから飛べないんだろうね⋯⋯翼が身体に比べて小さい」


 不便な生き物だ。


 「俺はパスだ。あんなのは逆立ちしたって勝てっこない」


 私と模擬戦をした男が仕事を放棄しだした。


 逃げたくなる威圧感をビンビン感じる。


 「怖いんですか?」


 「なんだと?」


 「私は怖いですよ」


 男が疑問の顔をする。


 「あれが世界に出る事が怖い。全てを壊してしまうのが怖い。遅かれ早かれ日本も襲うでしょう⋯⋯さらにその先。全てが怖い」


 「だから⋯⋯」


 「逃げても変わらないですよ。安心してください。帰るのは止めません」


 帰ってくれるのなら、その人の分のアイテムはいただくだけだ。


 「ちぃ。やっぱ無しだ。作戦は?」


 アメリカ政府の人が作戦を考えていた。


 レベル9の人達が全力で戦って動きを止め、核兵器を一気に放つ。


 そのタイミンで探索者は離れ、核兵器がドラゴンを倒す。


 シンプルだが、探索者の負担が大きいな。


 「上手く行くのかよ?」


 「どんなにレベルを上げても核には勝てません。大丈夫でしょう」


 日本の政府とアメリカの探索者の考えは違うんだな。レベル9なのに。


 核兵器と対面した時には相性次第では探索者が勝てる。


 彼女なら空間をねじ曲げ、私は凍らせて。


 あのドラゴンには通じるだろうか?


 「レベル9が三人も殺されたんだ。最初から全力で行くぜ!」


 大剣を振り回しながら、男が気合いを吐く。


 「紗奈、行くよ」


 「うん」


 「おいおい。あんたらが強いのは分かるけど、さすがにそいつは無謀ってやつだぜ?」


 「前足を私達で切り落とす、後は君らに任せるよ」


 「そこまで、あんたらと俺らとでは実力差があるのか?」


 「どうだろうね?」


 実際のところ分からない。彼らと私達の力の差なんて。


 ユニークスキル、加護、使徒、スキル、様々な要因で同じレベルでも強さには違いがある。


 「今日中には帰るんだ。絶対にだ。だから、全力で戦う」

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